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木崎は頬を不敵に引き攣らせたままコートのポケットに手を入れ、全く動じる事なく突っ立っている。どうやら苦笑しているようだ。
居住いそのものが十分脅しの道具になり得る質の男で、笑うことがあるなんて考えた事もなかったが――笑ったら笑ったで思った以上に嫌な顔だ。
「おいおい社長さん、そう急くなって。短期は損気だ――一つだけ種明かしをすると奇遇にも、志堂柾規と俺は部隊で同期だった」
「お前、弟と同期だったなんてそんな事一言も……道理で自信満々だった訳だ。知ってて僕に近づいたのか?」
唖然としながらも怒気を含んで問いただす佐鳥に、木崎は真顔で首を横に振った。
「それだけは誓って違う。だが、あんたら同様、俺達にとって情報は武器だ。安売りも出し惜しみもせず一番有効な時にカードを切る……そういうもんだろ?」
佐鳥は不承不承頷いた。
「部隊での思い出話を披露してもいいが、そんなことより本人に会いたいだろう?あっちだって本心から会いたくない訳じゃなさそうだし、交渉人役もできなくはない。だが、そこから先は別料金だ。先に報酬を……」
木崎はポケットから出した大きな両手をやや芝居じみた仕草で広げ、佐鳥はこれまで以上に視線に殺気を漲らせた眼で睨み返した。
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