0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「……」
落ち葉と思っていたものは、別のものだった。
落ちていたものは二匹のヤママユガ。羽を広げた大きさは、十五センチメートル程。
重なるようにして落ちていたそれらは、微動だにしない。どうやら既に死んでいるようだ。
重なっている二匹だが、上の個体と下の個体とで色合いが違う。
上の個体は地味な褐色だが、下の個体は黄色みの強い明るい色をしている。
よく見ると、触角も違う。上の個体の方が、ふさふさしている。
上が雄で下が雌……ということは、夫婦なのだろうか。住職はそう思った。
二匹のちょうど上の方にある木の枝。目を凝らしてよく見てみると、小さくて丸いものが、いくつも付いている。卵だろう。
きっと、この二匹が交尾して、産み付けたに違いない。
ヤママユガは成虫になると口が退化する。
成虫になったら長くは生きられまい。
短い時間で必死になって相手を探し、やっとのことで見つけたのだろう。
そして、交尾を終えると力尽きて地面に落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!