ある家族の話

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 犬と養子縁組ができるようになり何年か経ったころ。  ようやくハルと本物の家族になれた。  彼を家に連れてきたのは四年前。結婚して三年目のことだ。  それまでは、癒しを求め動画の犬を愛でる日々を送っていた。 「もう無理。本物を触りたい」  私のこのひと言がきっかけだ。  当時、とにかく仕事に疲れていた。  その時の精神状態は、限界の二文字がふさわしいと思う。  ハルは施設から引きとった保護犬だ。  垂れた耳が愛らしい、柴犬に似たミックス犬。  初めてその体に触れたとき、意外にもなめらかな感触で驚いた。  想像では、ふわふわの綿毛のようだと思っていたからだ。 「お昼ご飯もうすぐできるから、あとちょっと待ってね」  キッチンに立つ私の足元で、ハルがそわそわと動き回っている。  鍋の火を止め、キャベツ、人参、白菜を入れたスープを少し深めのお皿に盛った。  茹でたささみをトッピングし、スープが冷めればOKだ。  先に鍋を洗おうとしたところで、私は少しよろけてしまう。  ハルが足に飛びついてきたのだ。   「今熱いから! もうちょっとだけ待って!」  床に倒れるほどではないが、こうなっては作業を中断するしかない。  中型犬の四歳。  力はけっこう強いのだ。  よほどお腹が空いているのか、子犬のようにキャンキャンと訴えてくる。  休日のお昼はいつもこんな感じで、賑やかなのが当たり前。
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