ある家族の話

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 今の総理大臣が就任してから、あらゆることが良くなった。  出生率向上、少子高齢化改善、景気の大幅回復。  すべてを成し遂げた彼に、文句を言う人はほぼいない。  そしてある日突然始まった。    『犬の養子縁組制度』    総理は犬好きなのかなんなのか、彼らを戸籍に入れれば『国民』として扱うと発表。  当時は、「犬総理」「綱吉」などと呼ばれ、生類憐みの令で有名な徳川綱吉を思い起こす人が多かった。  当然、反対の声がでる。  しかし圧倒的な支持率を前に、反対派は勢いを失っていく。  すべてが満たされている今の日本では、「他人」や「生き物」に気を配る余裕のある人が多くなっていた。  動物を飼っているなら、誰もが「ペットは家族」と思うだろう。  そういった世論も後押しとなり、制度の準備は急ピッチで進められた。  養子の対象は犬に限定されているが、いずれはすべての動物を「家族」にすることができるのだとか。    私はそれまで犬を飼ったことがなかった。  飼い始めてわかったのは、とにかく可愛いということ。  見た目はもちろん、なによりもその行動が可愛い。    私の作ったご飯を一生懸命食べているとき。  口を開け、ヨダレを垂しながら寝ているとき。    じんわり、心が暖まっていく。  この子のためならなんだってできる。そう思えた。    私は今とても幸せだ。
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