ある家族の話

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 日曜日、ハルを連れてショッピングセンターへやって来た。  入口の警備員にハルの『身分証』を見せる。  父と同い歳くらいの男性だ。   「はい、どうぞー」  警備員は平坦な声で答え、次の客へ目を向けた。  自分の後ろを見ると、けっこうな人数が並んでいる。  養子縁組した犬は『身分証』が発行され、提示すればいろいろな所で人間と同じ扱いを受けられる。  スーパーや人間の病院など、自由に入れない場所もあるが、ほとんど問題ない。  厄介なのは、アナログな確認方法くらいだ。  店内へ入ると、クリスマスのきらきらとした装飾が目に入った。  そっか。もう十二月だったな。  今年のプレゼントはどうしよう。  ハル、欲しい物あるかな?  三階の犬専門雑貨店へ行ってみる?  新しいオモチャがあるかもしれない。 「見て。犬」  エスカレーターで二階を過ぎたあたり。  後ろの方から声が聞こえてきた。   「私たちの税金、きちんと人間に使ってほしいわよね」 「はあ……どうなってるのかしらね。この国は」  年配の女性の声だ。  私たちのことを言っているのだろうか。  養子になった犬は、人間と同等の権利が与えられ、社会保険や年金への加入も必要となる。  その代わり、働いている犬はきちんと納税しなければならない。  主にタレントやモデルをしている犬だ。  ハルは仕事をしていない。  だから私の扶養に入り、各種支払いは免除されていた。 「この前もほら、犬が相続するってニュース」 「あれね。結局飼い主の息子に殺されたやつでしょ? かわいそうに」  ねちねちした女性の声が耳に残る。  ゆっくり動くエスカレーターがもどかしくなり、残り三段を早足で上った。
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