ある家族の話

　ショッピングセンターの件から一か月ほど経った。
　最近、夫の様子がおかしい。
　スマホを見る時間が増え、休日は一人で出かけてしまう。
　話しかけても「うん」しか言わない。
　一番信じられないのは、ハルの散歩へ行かなくなったことだ。
　だらだらしている時間はあるというのに。

「ねえ、最近変だよ」

　ソファで横になっているだらしない男が、目だけをこちらに動かした。
　あたり前のように、スマホとそれを持つ手は固定されている。

「変って、俺が？」
「そうだよ。私が喋ってるのに上の空なこと気づいてる？」
「ああー……疲れてるんだ。ほら、今週残業多いじゃん。だからべつに普通」
「変。絶対に変。ハルの散歩はいつの間にか行かなくなったし」

　夫の眉毛がぴくっと動いた。
　勢いよく上半身を起こし、私のことを軽蔑した目で見る。

「変なのはお前だろ」
「私の何が変なの」
「ハルに構いすぎなんだよ。近所の人と揉めたのだってお前の被害妄想もあるだろ」
「は？　被害妄想は相手の方なんだけど」