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6.魔法学校があるって噂を聞いたの。
寝室に乗り込んできた、クリスはすぐに捕縛され連れて行かれた。
「レオ! クリスをどうするつもり?」
「ここは、マサス王国だ。マサス王国の法が適用される。王妃の寝室に入ってくるなどもっての他だろう。しばらく牢に閉じ込めたら、国に強制送還するよ」
牢とは言っても他国の王族だから、貴賓室のようなところだろう。
クリスは裕福な国で生まれながらの王太子として育てられたから、本当に私が入れられたような牢屋に入ったら卒倒しそうだ。
私の銀髪をいじりながら、レオは余裕の表情を見せてきた。
彼の恋する瞳を見ていたら、昨日まではなかった不安がどっと押し寄せてきた。
クリスも同じような瞳を私に向けてきたのに、突然私に覚めたようになりモリアに夢中になった。
今朝現れたクリスは、モリアが現れる前の彼のように私を愛しむような瞳を向けてきた。
もう、何が本当かわからなくなる。
人の移りやすい気持ちなど何の保証もない。
「強制送還は死罪と変わらないかもね。よく、ここまで来たものだわ」
この時期の凍てつくマサス王国に、海を渡って来るだけでも危険だ。
春が来る前に強制送還となったら、スグラ王国に到着する前に船が座礁する可能性が高い。
「他の男のことなど考えないで⋯⋯俺に集中して」
レオがまた私を押し倒して口づけをしてくる。
彼が私に夢中な姿を見せてくる程、私は彼の隣なら安心だとこの1年は思えていた。
しかし、極端な心変わりを見せて私を苦しめたクリスと再会した後は、寵愛だけ頼りにした安寧な日々に恐れを感じている。
「レオは私のどこがそんなに好きなの?」
私は手を伸ばして、彼の髪を掬いながら尋ねた。
「光輝くルビーのような瞳に、その月の光を閉じ込めたような銀髪。君よりも美しい女性はこの世に存在しないよ」
レオは私が1番欲しくなかった回答をした。
要するに外見が好きだと言うことだ。
外見など時が経つほどに変化する。
それに、私は醜い自分を見たことがある。
クリスに足蹴にされた時に、湖面に映った目から充血して髪も乱れ嫉妬や困惑でボロボロの私だ。
(見た目なんて、いつ変わってもおかしくないものよ⋯⋯)
「レオ、教えて欲しい。この間、魔法学校があるって噂を聞いたの。あれは、本当?」
魔法なんて、おとぎ話の中の話だと思っていた。
でも、私はスグラ国で魔女の疑いをかけられ処刑されそうになったのだ。
もし、私に魔法の力が本当にあるならば、しっかりとコントロールして自分の力で生きられるようになりたい。
男の気持ち次第で失う立場である今の幸せは、いつ失うかも分からないものだと私は知っている。
私の言葉にレオは私の話を聞いてくれる気になったのか、私を起き上がらせて向き合ってくれた。
「ルカ、君は王妃になったんだし、話しておこう。敗戦国とされてから30年、マサス王国は魔法研究をしていている」
「本当に? レオも知っての通り、私は魔女の疑いをかけられたのよ。あの時の炎を私が出したものだとしたら⋯⋯力をコントロールできるようになりたいわ」
今まで炎が発生した3回とも私の気持ちが昂った時だった。
マサス王国に到着してからは、平穏な日々を過ごしているので1度も発生していない。
「ルカは魔女の血を引いているのかも知れないね。確かに、魔法学校で魔法をコントロールする術を学んだ方が良いかも知れない」
「レオは私が魔女の力を引いていても、怖くないの? 変わらず愛してくれる?」
「君は、魔女ではなくて、俺の心を離さない悪女だよ。そんな可愛い甘え方をして本当に悪い女だ」
レオは、そういうと私に深く口づけをしてきた。
「悪女」という言葉に、私はクリスと父を思い出していた。
クリスもモリアが現れてからは、私を悪女のように扱った。
父は私が魔女の疑いを掛けられてからは、母を不貞を行うような悪女のように非難した。
母も私も悪いことなど全くしていない。
そんなに私を悪女扱いしたいなら、私も今の愛され王妃に甘んじず少し悪いことをしてみようかと思った。
「じゃあ、今日から魔法学校に行っても良い?」
「これから1週間は俺と寝室で過ごすんだよ。ルカ!」
「それは、また夜にね。私は魔法学校に通う! 私を愛しているなら言う事を聞きなさいレオ!」
初めて彼の意見に反論した私にレオは呆気に取られていた。
私がお願いとばかりに彼の頬に口づけをすると、彼は私が魔法学校に行く事を許した。
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