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10.時には恋とかしたりして学校生活を楽しみたいと思います。
キースが、魔法学校を案内してくれると言うので、私は地下に続く階段を降りて行った。
スグラ王国にもアカデミーという貴族の為の学校があったが当然地上にあった。
このように、地下に秘密組織のようにある学校を私は知らない。
そして、レオは魔法学校の存在を教えることで、私をモリアを使って陥れたことに気づかれないとでも思ったのだろうか。
(気が付いたところで、私がレオから離れて生活することは不可能だわ)
スグラ王国の罪人である私を、大陸に渡るのも難しい島国である敗戦国マサスが管理するという形で私の身柄は引き渡されている。
大陸の情報もあまり入って来ないマサス王国で、私を罪人呼ばわりするものはほぼいない。
ただ、国王陛下が寵愛する女として私はこのマサス王国で存在している。
だから、私の身分はレオの寵愛に頼って成り立っている。
(スグラ王国の時と変わらないわね⋯⋯)
「ほら、ここが教室。ここは地下2階だから、主に魔力のコントロールについて学ぶ授業が行われているよ」
そこに広がっていたのは、私の知っている教室風景とは違っていた。
スグラ王国のアカデミーが12歳から15歳の貴族が通っているのに対し、ここの教室にいる生徒は年齢も様々だ。
そして魔法学校の紋章の入った青いポンチョの下は、みなくたびれた服を着ていた。
(貴族じゃないわ⋯⋯ここにいるのは、平民ばかり)
「平民が多いなって思った? 皆、薬によって後天的に魔力を得ているからね。相性が悪いと死ぬような薬を飲んで力を手に入れたんだ。お貴族様は自分たちじゃ絶対そんな危険なもん飲まないよ。ここにいるのは、使い捨てても良い兵隊⋯⋯」
「黙って⋯⋯たとえ、それが真実でも彼らの聞こえるように言うのはやめて」
ナイフのように突き刺さる言葉を浴びた経験のある私からすれば、その内容は実は元から心の内にあったものだとしても一生口に出さないで欲しいと思う。
口を閉ざすことが相手を尊重するということもある。
「遠目で見ている時は、クールなお姫様に見えたけど、実はセンチメンタルなお姫様だったんだな」
私を評するキースの見解があっているかは不明だ。
私も自分を偽り過ぎてて自分がどんな性格か自分でもよく分からない。
ただ、魔法学校に入った瞬間から、今までに感じたことのないワクワクした気持ちになっている。
「わー! お姉さん。キレー」
水色の短い髪に水色の瞳をした女の子が私の足元に抱きついてくる。
私は、突然抱きつかれるような事を男にされたことはあっても、幼い子からされた事はない。
(それは幼い子でも私の身分をみんな知っていたからだわ⋯⋯)
「キース、もしかして私が誰かここの人たちは知らないの?」
私がキースの耳元で囁いた言葉にキースが頷いた。
「今から紹介するから」
彼がニヤリと笑いながらいった口を慌てて塞ぐ。
「絶対、言わないで! 私はただのルカリエとしてここで過ごしたいの」
こんな胸をときめかせる出来事があるだろうか。
私は初めて王太子に溺愛される侯爵令嬢でも、国王陛下の寵愛を受ける王妃でもなくここに存在するのだ。
ここにいる人達が私の事を知らないと言う事は、来る戦争の時が来るまで隔離されているのだろう。
万が一、他国に魔法の存在が知られてしまうと警戒されるからだ。
「自己紹介させてください! 今日から、魔法学校に入学しましたルカリエと申します。ルカって呼んでください。これから、皆さんと協力をして魔法を学んだり、時には恋とかしたりして学校生活を楽しみたいと思います」
私の言葉に先ほどまで騒ついていた教室がシーンとした。
(何かおかしい事言ったかしら?)
私はスグラ王国のアカデミー時代も、王太子の婚約者として遠巻きに見られていた。
生まれた時から決まってたクリスとの婚約に、私は彼を愛していると思うことが目標のようになっていた。
でも、それは私にその道しかなかったから、そう思い込もうとしていただけかもしれない。
(本当は他の令嬢みたいに、自分で見つける恋や友情に憧れてたわ)
「ハハッ! みんな今日は場違いなドレス姿で教室に来ちゃったルカに拍手! 早く仲間に入れてやってくれ」
キースの言葉に周りがパラパラと拍手してくる。
「じゃあ、こちらへどうぞ。ルカ!」
私は可愛らしい声に、新しい友達ができそうだと高鳴る胸をおさえた。
手を挙げて私を呼ぶ、その少女はピンク色の髪に空色の瞳をしたモリアと瓜二つだった。
(モリアじゃないよね? だって、モリアはスグラ王国にいるはずだもの⋯⋯)
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