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11.僕にできることなら、何でもします⋯⋯。(キース視点)
魔法学校の校長はしたくてやりたい仕事ではなかった。
僕、キースの両親は魔法の力を持った魔族だった。
僕たち魔族が住んでいた集落は、僕を残してマサス王国により全滅させられた。
僕たちには魔法が使えない時間があり、その秘密がマサス王国の間者に漏れていたのが原因だ。
捕らえられた両親は、俺の目の前で血を生き絶えるまで採取された。
絶望の淵にいた5歳だった僕の前に現れたのは、先代のマサス国王陛下だ。
「余は我々を辱めた大陸に一泡蒸すことを考えている。キース、お前を息子のように扱うと誓う。余の大陸侵略に力を貸せ」
そう言った彼は両親を失った僕が、彼の提案に飛びつくと考えていた。
僕が選ばれたのは、村で1番幼かったからだ。
まだ、子供で庇護する相手が必要な子供を拐かすなどわけないことだと思われていたのだ。
僕は魔法の力で人の心が読めた。
そのため、彼の心を読むと建前とは違う醜悪な考えを持っていることが分かってしまっていた。
それでも、生きる為には気付かないフリ、愚かなフリも必要だと思った。
「僕にできることなら、何でもします⋯⋯」
いつか復讐してやるという気持ちを隠しながら、僕はマサス王国の魔法研究をすることになった。
レオナルド・マサスの治世になると、魔法研究と、魔法使いの訓練所として魔法学校が創設された。
地下に秘密裏に創設された設備には、薬で誕生した魔法使いが集められた。
魔法使いと人間は根本的な遺伝子構造が違う。
それゆえに、オーダーされた魔法の力がつく薬を作っても摂取した人間のおよそ9割は拒否反応で死んだ。
上位の魔法を得る薬程、死亡率は高くなった。
副作用として、薬で誕生した魔法使いは魔法の力を1人だけに分けることができた。
でも、その不思議な副作用も含めて、まだ謎の多い薬を人に使う事に僕は反対だった。
「9割が死ぬ薬など使えません」
僕はレオナルド国王陛下に進言した。
僕は魔法の力でレオナルド国王陛下の心を読んだ。
レオナルド国王陛下は大陸侵略には興味がなく、興味があるのはスグラ王国のルカリエ侯爵令嬢だとわかった。
女1人手に入れたいだけなら、危険な方法で魔法使いを増産する必要はないはずだ。
「9割の食い扶持がいなくなるなんて一石二鳥で素晴らしいじゃないか」
もはや、討論することも無駄と思える程、レオナルド・マサスは平民の命を漂う蚊と変わらないと思う男だった。
「確かに、冬のマサス王国のことを考えますとそうでしょうね⋯⋯」
僕は歯を食いしばり、精一杯話を合わせた。
冬のマサス王国は、ブリザードが吹き止まない死の大地だ。
植物など育たないが、本当は俺の力を使えば天候を操り植物を育てることができる。
しかし、俺は自分の特別な力を極力隠した。
両親の仇の人間の為に、そのような力を使いたくないからだ。
レオナルド国王陛下がご執心のルカリエ王妃は、類稀なる美しさを持った人だった。
魔法使いたちは国婚への参列が許されなかった。
ほとんどの魔法使いは国王陛下が結婚したことさえ知らない。
僕はレオナルド国王陛下がご執心で、他国から汚い手を使ってまで連れてきたルカリエ王妃が気になっていた。
試しに彼女の心を読むと、情熱的に彼女を求める国王陛下とは対照的に彼女の心は冷めていた。
(⋯⋯私はレオを愛してるわ⋯⋯彼しかいないんだから、良いところだけ見て愛するようにしないと⋯⋯)
微笑みを讃えている彼女の心は読めば読む程面白いものだった。
「国王陛下からお話は伺っております。魔法学校の校長をしております。キースです」
「ルカリエ・マサスです。本日から宜しくお願いします致しますわ」
(⋯⋯同じ年くらいなのに、校長をやってるなんですごいわ。苗字がないと言うことは平民ね。平民の方と話すのも初めてだし、なんだか、魔法学校なんてワクワク⋯⋯)
ルカリエの感情を読む程、彼女が好奇心旺盛で差別意識の薄い人だということがわかった。
そして、控えめで淑やかな美しい見た目とは裏腹の性格に、思わず笑いそうになった。
ちなみに僕は見た目は若く見られるが、30歳で彼女とは12歳も違う。
「王妃命令よ、護衛の騎士は皆出口で待ちなさい」
彼女は僕と2人きりで話したいと主張し、騎士たちに命令して自分から離れるように命じた。
(⋯⋯使える力は使わないと、明日にはないかもしれない⋯⋯王妃の権力だって⋯⋯)
凛々しく指図した後に流れ込んできたのは彼女の不安な気持ちだった。
護衛騎士たちが、一礼して下がった後彼女に尋ねた。
「王妃殿下、何を考えているのですか? 僕があなたを害する可能性もあるのですよ」
「どうやら、あなたの魔法って心を読めるわけじゃないみたいね。あなたは私の敵なの? 興味ないふりをしても、一瞬私に見惚れてたでしょう」
予想外の言葉に動揺した。
僕は心が読めるし、興味はあったが美しい彼女の見た目に見惚れていた訳ではない。
なぜなら、魔法を使える身からすれば見た目など幾らでも変えられるからだ。
そのせいか人の美醜に然程興味が湧かず、絶世の美女と言われるルカリエに対しても外見には興味が湧かなかった。
「キース、早く2人きりになれるところでお話ししましょう」
僕はルカリエにそう言われて、校長室に彼女を通した。
(⋯⋯寝室に案内されたら、どうしようかと思った⋯⋯)
直後に聞こえてきた彼女の心の言葉に、俺はそんな発想なかったと驚いてしまった。
しかし、彼女の記憶を読む程、彼女は美しいが故に女としての自分を求められて苦労していることがわかった。
「もしかして、魔法を武力として使って戦争を起こすつもり?」
かなり天然なルカリエ王妃も、察しは良いようだ。
この魔法学校が、大陸侵略の為につくられた物だと言い当ててきた。
俺は彼女の考えが正解だと言ってあげるよりも先に、少し得意げに魔法学校の創立目的を当てた彼女を揶揄うことにした。
彼女を押し倒したのは、最初から彼女が僕に対して好意を持っていたのがわかっていたからだ。
昨日、国王陛下と結婚したばかりの立場で、僕に好意を持ってしまっているのは彼女が特異な環境で生活してきたからで哀れに思えた。
彼女はクリス王太子や国王陛下以外の同年代の男性と会話をしたことが一切なかった。
(⋯⋯校長先生、私と同じ年くらいだろうし⋯⋯友達になれるかも⋯⋯)
(⋯⋯なんか、キースの前だと自然でいられる。クリスやレオ相手の時みたいに気取らなくて済むわ。どうしよう、会ったばかりなのに、私、彼のこと好きなのかも⋯⋯)
(⋯⋯珍しい髪色ね⋯⋯彼も他とは違う存在として扱われて来たなんて私と同じだわ⋯⋯)
彼女の感情のどれも僕の心をざわつかせるものだった。
昨日王妃になった彼女が平民の僕と仲良くなりたがっているのだ。
僕は今まで周りから異質なものと扱われてきたので、好意を向けられるのは初めてだ。
彼女の思考を読むと、自分の立場を悲しい程理解していた。
国王陛下の寵愛により成り立っている自分⋯⋯そんなものに彼女自身うんざりしているように感じた。
そして、誰もが僕の藍色の髪を見ると魔族の血を疑い恐れるのに、他とは違う存在であることが自分と同じと感じるのも彼女の珍しいところだった。
彼女の心を紐解いていくと彼女がスグラ王国時代はクリス王太子に媚びて、今度はレオ国王陛下に尻尾を振る生活をしていることにストレスを感じているのがわかった。
彼女の現状から逃げ出したいと言う気持ちは心を読めばわかったが、それを口に出して僕に言って来たのには驚いた。
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