13.ここは世界から捨てられた人間が来るところ。(カリナ視点)

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13.ここは世界から捨てられた人間が来るところ。(カリナ視点)

 私、カリナは物心つく前に、魔法学校に来た。  魔法の薬によって治癒の力を得られたからだ。  この魔法学校はマサス王国の大陸侵略の為に創設されたものだという噂がある。  私たちは魔法をコントロールする訓練をしたり、戦闘演習をして過ごしている。  地下の魔法学校には、1通り娯楽設備もあり、買い物するところもある。  私たちは来るべき時まで地上に出ることは許されないらしい。  魔法の薬で手に入れた魔力は暴発することがあり、地上の人を危険に晒すことがあるらしいのだ。  私は給与の半分以上を、地上の両親に仕送りしている。  いつも手紙を書いているけれど、忙しいのか1度も返事があったことはない。 (私の魔法は治癒能力だから暴発しても、危なくないから地上に出たい⋯⋯) 「自己紹介させてください! 今日から、魔法学校に入学しましたルカリエと申します。ルカって呼んでください。これから、皆さんと協力をして魔法を学んだり、時には恋とかしたりして学校生活を楽しみたいと思います」  見たこともないような綺麗な女の子が、煌びやかなドレスを着てやってきた。  ルカリエみたいな子が来るようなことは初めてだ。  そして、魔法学校で恋をしたいなどと言うバカな子も見たことがない。 (美人だけど、頭が悪くて捨てられちゃったのかしら⋯⋯)  それに、ここにくる人間は皆死を覚悟しながら魔法の薬を飲んで力を勝ち取った人間だ。  もっと覚悟が決まった面持ちをしながら入学してくるのに、ルカリエは明らかに学校生活が楽しみで仕方ないと言った顔をしている。  私は物心つく前に魔法の薬を飲んだから、恐怖はなかった。  しかし、地上で貧困により追い詰められた大人がやってくることがあった。  その大人の1人が、「ここは世界から捨てられた人間が来るところ」と言ったのだ。  それは、ここの魔法学校にいる人間は薄々気づいていていたところだった。 (私は、両親から捨てられた訳じゃないはず⋯⋯手紙もいつか返事くるよね)  校長先生が、笑いながらルカリエをフォローした。 (確かに、誰かがフォローしてあげなきゃ、この子はやっていけないかも)  私は、ルカリエに興味が湧いた。  地下での生活は設備が整っていても、空が見えない。  そのせいか、ルカリエのような明るさを皆失っている。  おそらく戦争の為に創設された訓練施設で恋がしたいなんて自己紹介する彼女が面白い。  私は、初めて両親以外の人間に興味を持った。 「じゃあ、こちらへどうぞ。ルカ!」 「クーナ男爵令嬢⋯⋯どうしてここに?」  私はルカリエの言葉に一瞬耳を疑った。   「私は、カリナっていうの。どう見ても貴族令嬢じゃないでしょ」  ルカリエがドレス姿で魔法学校に来たのは、貴族ごっこがしたいのだろうか。  ますます、変わり者の彼女に興味が湧いてくる。 「クーナ男爵令嬢じゃないんですか? もしかして、双子? 私、カリナ様とそっくりな方を見たことがあって⋯⋯」  ルカリエの言葉に一瞬、自分は双子だったような気もしてきた。  もし、双子だとしたら、双子の片割れはどこにいるんだろう。 (もしかして、片割れだけ地上にいるんじゃないよね⋯⋯私だけ捨てられたんじゃないよね⋯⋯)  一気に不安が押し寄せてきて、よろめいた。 「大丈夫ですか? 私が変なこと言ったせいですよね。世の中には7人似ている人がいると言いますよね。私の見間違いでした」  ルカリエが心底心配そうな目で私を見つめながら、私を支えてくれる。  こんなに人に心配してもらったのは初めてだ。  よろめくような事があっても、高熱を出した時さえ治癒能力があるから何とかなるでしょと言われてきた。  実際はこの治癒能力は自分には使えない。  要するに、助けて欲しければ私の力を渡せという要求だ。  世の中には似ている人が7人もいるとは初めて聞いた。  目の前の、絶世の美女にもそっくりさんがいたりするのだろうか。 (なんだろう、私、バカっぽいけど、この子と友達になりたいかも)  私はその瞬間、無意識に自分の魔法の力を彼女に分けるよう念じた。  途端にエメラルドの光がルカリエを包み込み、皆が一斉に彼女を見る。  当然かもしれない。  皆、私の治癒の力を分けてほしいと、よく迫ってきた。  治癒能力というのは上位の魔法の力で、薬を飲んでもこの力を得られる確率は非常に低いらしい。  私はこの力を母に会えた時に、分け与えようと思っていた。  それなのに、私は生涯たった1人にしか分けられない力を出会ったばかりの子にあげた。  どこかで私は自分が親に捨てられたことに気がついていた。  ルカリエが本当に私を心配している姿を見て、親が私を捨ててないなら今すぐ会いに来てくれると確信してしまったのだ。 (こんな地下に子供が15年以上暮らして毎月手紙とお金を送っているのに会いに来ないって、そういうこと⋯⋯)  目の前の顔だけの明るい子と、捨てられた者同志仲良くしたいという気持ちが芽生え私は力を渡していた。 「ルカリエ、今日から友達だね。今、渡した力が友情の証」  私が笑顔を向けると、彼女も嬉しそうに微笑み返してきた。 (本当に綺麗な子⋯⋯) 「私、今、何か力を貰ったんですか? もしかして、魔法の力? 私も友情の証として私の火の魔法の力を渡せればと思うんですが」  その言葉に私は驚いた。  火の魔法の力を作る薬は、製造が禁止されていた。  地下で万が一訓練中火事でも起きたら大変だからだ。  でも、戦いの際は絶対あった方が良い魔法の力だ。 「どうやって魔法の力を渡すの? キース!」  ルカリエは校長先生にタメ口を使う問題児だったようだ。  そして、校長先生は明らかにルカリエの質問に戸惑っていた。
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