14.僕が君に化けて陛下に抱かれるよ。(キース視点)

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14.僕が君に化けて陛下に抱かれるよ。(キース視点)

 僕はルカリエの力が、国王陛下から与えられたものだと知っている。  彼女の魔法の力は分け与えられたものなので、人に分ける事はできない。  彼女は魔女としてスグラ王国で迫害された事まで、国王陛下の陰謀だと知ったらどう思うだろうか。  耐えられるのだろうか⋯⋯そんな男に今晩も好きなようにされることを。  そして、火の魔力を自らの命を危険にさらしながら得て、ルカリエに分けた事に快感を覚えている変態国王を怒らせることが起きてしまった。  カリナという別の人間の魔力が、ルカリエに注がれてしまったのだ。  ルカリエに対する過剰な独占欲と執着を持つ陛下がこれを許せるはずない。 「ルカリエ、君はまず人に魔法を分け与える事より、魔法のコントロールを覚えた方が良い」 「校長先生、ルカリエは火の魔法が使えるんですか?」  カリナなの当然の疑問に、どう答えたら良いのだろうか。  魔法の力を持った者は地下に閉じ込められているのに、国王陛下は地上で自由にしている。  氷の大地で貴重な力となる火の魔法を、陛下は身につけ寵愛する女ルカリエに分け与えている。 (言えない⋯⋯ルカリエにも⋯⋯魔法学校のみんなにも) 「私、多分、魔女の血を引いているんじゃないかと⋯⋯」  ルカリエの言葉に周りがどよめいている。  当然だ、僕を残して魔族は25年前に全滅している事はここにいるみんなが知っている。  周囲の思考を読むと、ルカリエが顔が良いだけの変な子と考え出したのが分かった。  真実を教えると、国王陛下だけ魔法が使えるのに地上生活を許されていることと、ルカリエが王妃であることがバレてしまう。  (ルカリエは友達を欲しがっている⋯⋯変な子扱いも王妃扱いもマイナスだ⋯⋯)   「ルカちゃん、めちゃ綺麗ね。俺と付き合おうよ。恋がしたいんでしょ」  俺が考えあぐねてたところに現れたのは、マリオ・キルギスだった。  この魔法学校では珍しい貴族出身者で、自ら志願してここにきた人間だ。  アイスグレーの髪にアイスブルーの瞳をした涼やかな見た目をしているが、かなりの曲者だ。  彼は非常にモテて、こっそり多くの学生に手をつけていた。  そんな彼が美しいルカリエに目をつけたのは必然だった。 「私、もう気になる方がいるんです」  俯きながら、俺に視線を向けてくるルカリエは不思議な女だ。  僕は魔族で人間から見れば、犬や猫の動物みたいなものだ。  そんな僕を自分と似ていると考え、会ったばかりなのに好意を向けてくる。 「すごい、なんか本当にここが地上の世界みたい⋯⋯」  カリナが呟いた言葉に、思わず彼女の心を読んだ。  彼女は魔法学校が大陸侵略の為の機関で、自分らは使い捨ての兵隊だと少ない情報から気が付いていた。 (正解だ。カリナ⋯⋯賢さは自分を苦しめるぞ)  しかし、ルカリエがあまりに魔法学校に期待していているので、小説のような恋愛のいざこざが始まるような気がしたようだ。  カリナの思った通り、マリオが影に隠れずルカリエを口説き出した。  それは、申し訳程度に娯楽小説を与えられた学生たちにはご褒美だったようだ。  ルカリエを中心に始まりそうな、恋物語を舞台の観客のように楽しみにしている。 「もう、私は恋をしています。私は⋯⋯自分でも認めたくないけれど、許されないと分かっているけれど⋯⋯自分が一番自然でいられる人に」  また、ルカリエが俺に視線を向けながら告白してきた。 (さっき、こっぴどく振ったのに、異種族で年も離れている僕を求めるなよ⋯⋯君の為によくないんだ)  僕は彼女の好意を必死に迷惑がりながら、本当は嬉しくて仕方がなかった。  僕もルカリエと過ごした時間は短いのに、人生で1番楽しかった。  彼女は自分が昨日、国王の妻になったことを完全に忘れたわけでもない。  それなのに、初めて気を遣わず会話をできた男という理由だけで僕を求めている。  そんなことは分かっているのに、僕は愛情に飢えた獣なのかもしれない。  色々な弊害があると分かりつつも、ルカリエのことが気になり出していた。 「いいよ。君が誰を思っていても⋯⋯」  マリオは平民魔法使いの女相手には無双してきた。  口説いた女は全て落とした経験が、彼を傲慢にさせている。  ルカリエの髪をまつると、口づけをしようと顔を近づけていた。 (なんだ? この不快感は⋯⋯僕はルカリエを愛している訳じゃないはずなのに)  自信満々のマリオを、ルカリエはグーで殴った。  魔法学校一のモテ男を拒否して殴ったのに、なぜか歓声が沸いた。 (マリオ⋯⋯相当やらかしてきたから、すでに女の敵になってるぞ) 「な、何するんだよ」 「私は好きな方がいるから、他の方からの触れ合いは不快なんです!」  マリオの狼狽える言葉に応えたルカリエの言葉に胸が痛んだ。  彼女は僕が好きだから、今晩狂ったように国王陛下に触れられるのが苦痛のはずだ。  僕はここにきて禁じ手を使うことを決意した。  ルカリエの耳元でそっと囁く。 「今晩は、僕が君に化けて陛下に抱かれるよ」  彼女にとって救いの言葉になるだろうと発した言葉に彼女は真っ青になった。 「そんな⋯⋯キースってそうだったの⋯⋯」  ルカリエがよろめいたので、咄嗟に彼女の心を読んだ。  しかし、彼女のショックが大き過ぎて思考停止したのか何も聞こえなかった。 「ルカ! 今から魔法のコントロール方法を教えるわよ。マリオは氷の魔法の力を持っているんだから、ルカの魔力が暴発した時の為に待機!」  いつになく楽しそうな声でカリナが言う。  どうして、ルカリエが魔力を得たなんてどうでも良いくらいの雰囲気になっていた。  いつも辛そうな顔をしてていた魔法使いたちが、楽しそうな顔でルカリエを見ている。  ルカリエは魔法を超える、人の心を掴んで離さない力を持った不思議な女だった。  常に悲壮な雰囲気を持っていた魔法学校の空気は彼女の登場で明るいものへと変わった。
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