19.あったかいお風呂って天国ね。(キース視点)

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19.あったかいお風呂って天国ね。(キース視点)

「ルカリエがスグラ王国の奴らに誘拐された! 探し出せ!」  ルカリエが全てのマサス国王陛下の言葉に、俺は彼女に同情した。  彼女はおそらく狂気の愛を持った陛下の側を離れる方が幸せだ。  スグラ王国のクリス・スグラに脱獄され、ルカリエが消えた今国王陛下は必死だ。  彼は自分が彼女を求めるばかりで、1度も彼女の心に身を寄せたことがない。    彼女は国王陛下のせいで、魔女と迫害され故郷を追われ生きてる心地もしない日々を過ごした。  彼女の不安な気持ちを利用して、自分に心酔させることだけを考えている国王陛下はクズだ。  しかし、この時期のマサス王国近海は氷山に囲まれてて危険だ。  そんな危険な中、出航したスグラ王国の船に乗せられたルカリエが心配になった。    僕はルカリエが幸せであれば、彼女の隣に誰がいようとどうでも良い。  一見、誰からも羨まれる彼女の人生の記憶を読む程、全く幸せに見えなかった。  彼女が出会ったばかりの気を遣わない、俺に想いを寄せてしまうのも仕方がないことに思えた。  スグラ王国時代は周囲からクリス王太子を愛することを強制され、彼に疑問を感じても必死に媚を売っていた。  マサス王国に来てからは、生きる為に少しでも自分の気持ちを安定させるようと必死にマサス国王を愛そうとした。  彼女の綱渡りのような人生も、一瞬も幸せを感じていない不安定な心も誰も理解していない。  ルカリエは本当はささやかな幸せを願う女の子だ。  そんな彼女がまた碌でもない男に振り回されていて、僕は反逆計画を忘れ彼女を助けたいと思ってしまっていた。  真夜中に近海の海をひたすらルカリエを探した。  真っ赤な炎に包まれる、船上にいるルカリエを見た。    ルカリエは火の魔法で海の温度を上げて沈没に備えていた。  緊急時なのに、落ち着いて考え対策をしている彼女が愛おしかった。  そんな彼女を魔女だと非難するスグラ王国の人間を焼き殺したくなった。  ルカリエの手段は彼女が必死で自分のできることを考えて、周りの為にやっていることだ。  誰も彼女を理解しようとしない。 (顔だけの女扱いするな! ルカリエはそんなんじゃない!)    僕は気がつけば、ルカリエだけを助けようと彼女を抱きしめ校長室に瞬間移動していた。  彼女が安全が確保され最初に考えたのは、船に残した奴らの安全だった。 (君を魔女呼ばわりした奴らだぞ! 正気か!)  そして、そのあと読んだ彼女の感情は僕に対する溢れんばかりの恋心だった。  それが彼女の特異な環境によりつくられた感情だと思うから、彼女に釘を刺した。  それなのに、その後流れ込んできた彼女の気持ちは僕を戸惑わせた。 (⋯⋯私の気持ちを読んでよ! 私が好きなのはキースなの!⋯⋯)  僕は心を読めることが露見すれば、怖がられて避けられると思っていた。  ルカリエは自分が本当に僕のことが好きなのを知って欲しいと心で叫んでいる。 「あったかいお風呂って天国ね。ありがとう、キース」  僕はルカリエが絶世の美女と呼ばれても、美醜に興味がなく美しさが分からなかった。  でも、頬を染めながら僕にお礼を言って、好意を隠そうにも隠しきれないルカリエを可愛いと思った。 「ルカリエ、今日からここに住もうか。期間限定になると思うけれど」  ルカリエの心を読むと、スグラ王国のクリス王太子はマサス王国を春には攻める予定らしい。  彼女が死んだと勘違いさせることができても、クリス・スグラはマサス王国を攻めるだろう。  僕は牢に入れられたクリス・スグラに会ったことがある。  僕は彼を来るべき時がくれば必ず殺して欲しい相手だと国王陛下から紹介された。  クリス・スグラの頭の中も、大国の王太子とは考えられないくらいルカリエでいっぱいだった。  そんな彼女が亡くなったと思えば、必ずマサス王国に報復にくるだろう。 「期間限定じゃなくて、ずっと一緒にいたいってキースに思わせて見せるよ」  僕が考えあぐねていると、ルカリエが僕の首に手を回して口づけをしてきた。  彼女のキスが僕を操ろうとする目的ではなく、純粋に僕を好きだからしているものだと心が読める故に分かってしまう。  異種族な上に、身分も違う、年齢も離れた僕に本気になっているのは、彼女が特異な環境で育ったせいだ。  分っているのに、僕を求めて期待の視線を向けてくるルカリエを愛おしいと思ってしまった。  僕は彼女の軽いキスのこたえとしては、濃厚すぎるキスを彼女に返していた。 「ねえ、キース、一緒にいたい。私、ここに住んでもいいよね」  キスの合間に伝えてくるルカリエの言葉に、僕はまた熱いキスで返していた。  ルカリエは恐ろしい女だった。  復讐に燃える僕の心も、反逆計画も忘れてしまいそうになる程の純粋な愛を向けてくる女だった。
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