21.私、ずっとルカリエになりたかった。

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21.私、ずっとルカリエになりたかった。

「ルカリエ、モリアを連れてきた」  私がカリナと抱きつきながら寝てたと思ったら、また校長室にいた。   どうやら、私はキースに瞬間移動で連れてこられたようだ。 「モリア様なの?」 「治癒魔法で治したが、切断された部分までは元の通りにはならない」  私はキースの言葉に、怒りで体の震えが止まらないかった。  モリアは両手足の指を全て切断されていた。 (ここまで酷い拷問したの? 何でこんなことが許されるの?)    彼女は王族の子を産んだはずだ。  それでも、クリスの逆鱗に触れたのだろう。  クリスは元々、唯一の王位継承者として育てられた男で自分を特別だと考えていた。  それゆえに他者から操られるようなことは彼のプライドが許さなかったのだろう。 「私、謝らないから」 「私はあなたの事恨んでないから、謝る必要なんてないわ」  私の言葉にモリアは驚いていたが、別に驚く程のことではない。  王命に従わなければ、死ぬしかない。  スグラ王国もマサス王国も王家の力が強すぎる。  悪いのは自分の子まで産ませながら、彼女を全く尊重しなかったクリスだ。 「魅了の魔力はどこにいったの?」  私は気がつけば涙声で彼女に尋ねていた。 「子供を産んだら、その子に全ての力が受け継がれたの。アンドレなんか産まなきゃよかった⋯⋯」  空虚な瞳で伝えてくるモリアの言葉に私は悲しくなった。 (待って、アンドレは魅了の力を持っているってこと?)  私は、初めて唯一の王位継承権を持っていたクリスの立場を脅かす存在であるアンドレの存在が気になった。  そして魅了の力を持っているなら、赤ちゃんである彼は自分の身を守れてそうだと安心した。 「子を産んだら、力を失うのか⋯⋯魔法の薬で得た魔力はまだ未知なことが多いな」  キースが呟いた言葉に、私は魔法の薬が安全でないものだと言うことを知った。 (カリナや魔法学校のみんなは、そんな訳のわからない薬を飲んだってことなの?) 「モリア様⋯⋯クリスに仕返ししたくない? 彼の子供まで産んだのにこんな目に遭わされて」  私は身動きが取れないように全ての指を切断されたモリアを見て怒りで震えた。 「私は、国王陛下の命に従っただけよ! 陛下の為なら何でもするわ。彼を愛してるもの! 娼婦にでもなるし、死んだって構わない!」  予想外のモリアの言葉に私は驚いてしまった。  彼女はレオを愛しているらしい。  そして、他の男に抱かれ子を産み、拷問を受けてもなお、レオを慕っている。 「あんたって美人に生まれだけで、ずっと愛されて大切にされて良いわよね! あんたの母親も美人だから侯爵に捨てられても、どっかの子爵がすぐに拾って結婚したわ」  モリアが私を恨めしそうに見ながら、言った言葉に私はため息をついた。  モリアは私の実家の事情を、表面的にしか分かってない。  母を拾ったというのは、母と婚約する予定だったローリエ子爵だろう。  父は舞踏会で一目惚れした母に婚約を申し込んだ。  そして、貧乏男爵家の出身の母は両親から説得され父に嫁いだ。  私の父、セリア侯爵はスグラ王国の中でも3本の指に入る資産家だ。  父は母を束縛し、母が他の男と踊る事も許さなかった。  私は母が強く愛されていると思っていた。  しかし、娘の私が魔女だと思ったら、母の不貞を疑い切り捨てた父は母を信用していなくて束縛していただけだったようだ。  未だ独身を貫いていたローリエ子爵と結ばれたのなら、母はやっと自由になれたのだ。  私とクリスの婚約も、彼の初恋が私の母だったからだ。  それゆえ、私と5歳差のクリスは母が出産した時、私を欲しいとねだった。  望めば何でも叶えてもらえるクリスは、当然のように私の人生をプレゼントされた。 「そんなに私が羨ましいなら、私と代わる? レオは私に夢中よ。自分を失ってもレオに愛されたいなら喜んでルカリエ・マサスを差し出すわ」 「モリアをルカリエの姿にしろってことだね」  私の提案にモリアより先に反応したのはキースだった。  レオは私を愛していると言うけれど、おそらく私の中身が別の誰かになっても気が付かないだろう。  それくらい、この1年私は彼を愛しているフリだけをする女だった。  心から彼を愛しているモリアなら演じる必要さえない。 「ルカリエになれるの? 私、ずっとルカリエになりたかった。陛下が狂ったように愛する女に」  モリアの言葉に胸が痛くなった。  私は彼女を騙してはいないだろうか。  狂ったように愛されることは、決して幸せになれることとイコールではない。  レオは自己中心的で、一番大切な宝物のように私を扱っても人として尊重してくれている訳ではない。 「王妃の立場でいられ続けるかもわからないわよ。マサス王家は滅ぼされるかもしれない。それだけめちゃくちゃな事をもうやってしまっている」  クリスは私がマサス王国にいると知ったら奪いに来るだろう。それは、私を愛してるからというより、やられたままではプライドが許さないからだ。  クリスがマサス王家を滅ぼさなくても、私はレオを失脚させるつもりだ。  私の尊厳を踏み躙り、大切な国民に危険な薬を飲ませて使い捨ての兵隊にしようとしているクズを国のトップには置いておけない。 「構わないわ! 陛下と1日でも夫婦になれるなら、明日処刑されても構わない」  モリアの嬉しそうな期待の表情を見ていられず目を瞑った。 「じゃあ、交渉成立だね」  キースがそう言うと、7色の光がモリアを包んだ。  光が消えるとそこには私がいた。 (手足の指がある! よかった) 「私、ルカリエになったのね。これで、陛下から愛されるわ」 「今から君を陛下のところに連れてくよ。ただ、彼を愛していれば上手くやれるよ」  私はキースがモリアに言った言葉に、胸が張り裂けそうになった。 (キースに私は生きる為なら、男に媚びる下賎な女だと思われてるわ⋯⋯彼のこと好きな気持ちも本当のものとは、きっと信じてもらえない)  キースがモリアをレオの元に瞬間移動の魔法で連れて行った。  私は校長室に残されてボーッとキースのことを考えた。  好きでもない男に平気で体を差し出し、顔しか取り柄のない私を彼が愛してくれる事などないだろう。 (キース相手には顔で、私の中身のなさを誤魔化せないわ⋯⋯)  でも、彼のことを諦めきれないから、私は彼の反逆計画を手伝える女として魔法の力を磨こうと思った。 (たとえ愛されなくても、彼にとって手放せない女になろう)  キースが目の前に現れて、私の前で複雑そうな顔をしていた。 「絶対気が付かれないと思うわ。10年以上私と一緒にいたクリスだったら偽物だと気がつくだろうけれど、レオは盲目的に私を想っていたから⋯⋯」  私はレオが私が何を言っても、愛おしそうに私を見つめているのを思い出していた。  
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