22.君が誰より僕を好きだって知ってる。

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22.君が誰より僕を好きだって知ってる。

 あれから、半年。  私たちは魔法の特訓を重ねた。  その魔法の特訓は今までのような戦いの為の特訓ではない。  飛行能力で種を蒔いたり、植物を育てる能力で畑作りをしたり、氷の能力で食材を冷やしたり生活する特訓をした。  レオはモリアが私に化けている事に気がついていないようだった。  私は気の置けない仲間と幸せな時間を過ごしていた。  そして、運命の日が来た。  私たち、魔法学校に出動命令が出たのだ。  理由はスグラ王国が大軍を連れて、ルカリエ王妃を奪還に来たからだ。    キースの話だと、再三スグラ王国はルカリエ王妃の返還を要請しなかったがレオが応じなかったらしい。   「私たちは自分たちの自由を勝ち取る為に戦うのよ」 「オー!」  地下の広場に集めた魔法学校の学生を鼓舞する。  私は魔法学校の子たちが戦うのは最終手段だと思っている。  でも、今日は地下と地上を繋ぐゲートが開く。  魔法学校の生徒全員が外に出られるのだ。 「カリナ、伝えた通り、私たちが攻撃として魔法を使うのは最終手段。私たちの魔法はマサス王家を滅ぼしてから自分たちの国を創るのに使うのよ」 「ルカ⋯⋯いや、ルカリエ王妃殿下なんだよね」 「私はルカだよ! 数時間後にはマサス王家を倒してこの国は共和制にする。王族が支配するのではなく、国家の全てを話し合ってみんなで決めるの」  私は自分の正体をカリナだけには明かした。  彼女の双子の姉モリアの存在は明かしていない。  ただ、今は替え玉がルカリエ・マサスとして国王陛下に付き添っていると言うことを話している。  私は誰も血を流すことなく、自分たちの自由を勝ち取りたいと思っていた。  ここにいる子たちは幼い子が大半だ。  そんな子たちが戦う必要はない。  戦う責任があるとしたら、この国に責任がある王妃の私だ。 「みんなは、合図があるまでここで待機だよ。怖がらないで大丈夫。地上に出た時は、戦いなんて終わって平和が待ってるかもしれないよ」  私が言うと、そんなわけないと皆が苦笑いをした。 「キース、私をクリス・スグラの元に連れてって」  私はキースにお願いして瞬間移動をしてクリスの元に行くことにした。  私とクリスはスグラ王国の船が接岸している港に到着した。 (クリス⋯⋯あなたの言った通り悪女のルカリエがお出ましよ)  結局、キースとの仲は進展することはなかった。  当然かもしれない。  私はレオと結婚しているから、私に好意を寄せられても彼も困るだろう。  そして、私のような女の言葉を信じてなど貰えないだろう。 「信じてるよ。君が誰より僕を好きだって知ってる。僕は魔法使いだから心が読めるんだ」  まるで、私の心の声に応えるようにキースが耳元で囁いて次の瞬間消えた。 (何? 今の? 本当にキースが言ったの? 私の願望?) 「ルカリエじゃないか! 君を奪われたと思って俺は迎えに来たんだ」  キースの消えた場所を見つめていると、急に後ろから抱きしめられた。  昔は大好きだった高い体温と甘い匂い⋯⋯私の元婚約者のクリス・スグラだ。 (今はもう一度キースと会えることを願って、私は全力で悪女になるわ) 「クリス会いたかった。1年半ぶりくらいかな」  私は彼の好きな甘ったるい声色を使いながら、彼の手に手を重ねた。 「え?」  私の言葉にクリスが目を丸くする。 「実は私、マサス王国に連れて来られてから、ずっと替え玉を立ててたの。あなた以外の男に触れられるのも、妻になるのも絶対嫌だもの」  私はクリスに向き直り、彼の目をじっと見つめながら語り出した。 「ルカリエ! なんて、賢い子なんだ。そうだよな、僕のルカリエがこんな野蛮な国の王に汚される訳ないよな」  クリスは私を強く抱きしめた。  彼とマサス王国で再会した時に、反抗的な態度をとっていたのが功を奏した。  クリスの中での私は、彼に反抗したりしない、いつも彼に媚びて彼しか知らない女だ。 「じゃあ、あの女は一体⋯⋯」 「私が魔法で私にそっくりな女を作ったの。魔法を解いたら正体はカエルよ。毎晩、カエルを抱いてるなんて馬鹿みたいよね」  クリスは人を馬鹿にするのが好きだ。  私は彼のそんなところにうんざりしながらも、彼に合わせて人を馬鹿にしたりしていた。 (そんな自分が大嫌いだったわ⋯⋯)  私がキースを好きなのは、多分自分が一番好きな自分でいられるのが彼の隣だからだろう。 「本当に馬鹿だな。でも、どうして前に会いに行った時は僕の前に現れてくれなかったの? 寒くて危険な中、君に会いに行ったのに⋯⋯」 「それは、こっちのセリフよ。偽物の寝室に突撃して、偽物を救出するなんて酷い!」  私は拗ねたフリをする。  ちゃちな駆け引きだが、こういうくだらないやり取りがクリスは大好物だ。 「ごめん、悪かったよ。はあ、僕の好きなルカリエだ。今すぐ帰国して結婚したい」  私を抱きしめながら、私の髪の匂いを嗅いでくるクリスに鳥肌がたった。 「それにしても、ルカリエは本当に魔法が使えるんだな」  私の髪をすきながらクリスが尋ねてくる。 「私が怖い? 私も怖かった⋯⋯クリスに蹴飛ばされた時、本当に怖かった」  私は彼の胸に顔をうずめて掠れた声で言った。 「違うんだ。あれは、モリアに魅了の魔法を使われいて操られていたんだ。大切なルカリエに僕はなんてことを」  私の悲しそうな顔が見たいのか、彼に顔をあげさせられる。  彼は人が苦しそうにしている顔が大好きだ。  だから私は涙を流しながら、彼の顔を見つめた。  悲しいことがあり過ぎて、私はそれを思い出すとすぐに泣けるようになっていた。  彼が私の泣き顔に欲情したのか唾を飲み込んだ音が聞こえた。 (本当に最低な男⋯⋯)
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