23.あなたの愛って本当に価値がないわ。

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23.あなたの愛って本当に価値がないわ。

「モリアはマサス国王の企みで魅了の力をつけたんでしょ。多分、私も何か飲まされたんだと思う。でも、クリスの役にたつ力が使えるようになったのよ」  私はクリスの胸に手を当て、治癒の魔力を使った。 「なんか、すごく温かくて力がみなぎる気がする」 「結婚したら、毎晩、元気にしてあげられるね」  私が言った言葉に、クリスは頬を染め目を輝かせた。  金髪碧眼の美しい王子様のクリス⋯⋯私は彼のことも外見から好きになる努力をした。  内面は知れば知るほど、私をがっかりさせるものが多く見ないようにした。  (私が初めて内面を見る程に好きになっていったのが、キースなんだわ)  誰といてもキースのことを考えてしまうのだから、私が彼のことを好きなのは明白だ。  こんな気持ちで他の誰かとなんて一緒にいられる訳がない。  だから、私は私に執着するクリスとレオを自分から切り離すつもりだ。 「私は今、公的にはマサス国王の妻なんだよ。正式にクリスの妻になりたい」 「なれるよ。君とマサス国王は白い結婚なんだから、俺がなんとかする」  私はクリスの言葉に微笑んで、彼の頬に軽く口づけをした。  やりたくないけれど、彼の頭をピンク色に染め正常な判断能力を失わせる為に必要だ。 「そう言うことは、正式に結婚するまで我慢だよ。ルカリエ!」 「はーい!」 「じゃあ、騎士たちには武器を下ろさせて、こんな武装してたら向こうから攻撃してくるわよ。戦いもせず、私を取り返した方がクリスの評価が上がるわ。だって、今はモリアの子がいるんでしょ」  私は悲しそうな顔でクリスを見つめた。  モリアの子、アンドレは魅了の魔力を持っている。  おそらく、その力により周りの人間には好意的に見られているだろう。  そしてクリスは唯一の王位継承権を持った者として立太子しているが、敵は多い。  クリスを扱い辛いと思っている貴族は、アンドレを次期国王にできないか画策しているだろう。 「俺は本当に君を苦しめたのに⋯⋯君は俺のために悩んでくれるんだな」  私を愛おしそうに見つめる彼を見つめ返す。 「私とクリスと護衛騎士だけで、マサス国王のところに行こうか。偽物を抱いて満足してる田舎者の男を馬鹿にしてやろう」  私はクリスの耳に内緒話をするように囁くと、彼も頷いた。  魔法学校では、いつも自然体の私でいられた。  久しぶりに必死に男に媚びる自分を演じると、何か削られて失ってくような感覚に襲われる。 (よく、こんなこと10年以上もできてたな⋯⋯)    最小限の護衛を連れて王城に向かうと、スグラ王国が攻めて来たのではなく対話をしに来たと思われたようだ。  緊迫した周囲の雰囲気が落ち着いたものに変化していく。  地上の人間は私がルカリエ王妃だとわかっているから、私がスグラ王国の人間と交渉していると期待しているようだ。 「王妃殿下?」  門番が私の姿を見て狼狽えている。  当然だろう。  今、王城の中でレオの隣に寄り添っているはずの女が外にいるのだ。 「そう、私が間違いなく。本物のルカリエ・マサスよ! 門をお開けなさい」  私が凛として言い放つと、一瞬戸惑った門番も門を開けた。  横に大国の王太子クリスがいるから、追い払うこともできないだろう。  私とクリスは玉座まで、寄り添いながら歩いた。  スグラ王国で彼と過ごした期間は10年と長いのに、その時のことを話す程に虚しい気持ちになる。  全てのことが自分のことようで、自分ではない誰かが過ごした時間のように感じる。  (私が私でいたのは、魔法学校で過ごした短い時間だけだわ)  モリアが化けたルカリエを膝に乗せて愛でていたレオは、私を見るなり驚愕の表情を浮かべた。  2人とも人目も憚らず先ほどまでまぐわっていたのか、服装が着崩れている。 「クリス⋯⋯相手は丸腰だわ。私たちも騎士たちを下げましょう」  クリスは私の要望の従い騎士を下げた。    明らかに困惑した表情を浮かべたレオが私と私に化けたモリアを見比べている。 「お邪魔なようでしたね。マサス国王陛下、ルカリエとの婚姻破棄してくれますか? 本物のルカリエはこの通り、あなたに指1本触れられていない。この結婚は白い結婚です」  クリスが勝ち誇ったように言う言葉に、レオの表情がこれ以上ないくらい歪んだ。  「なんだ? ルカの偽物を用意して何を企んでる」  レオがクリスを睨みつけながら言った言葉に、私は彼が本当に私のことを見ていなかったと感じた。  まるで、自分の救いの女神が現れた神聖な出来事のようにスープの話をしてきた彼は、偽物と本物の私の区別すらつかない。 「レオ! あなたの愛って本当に価値がないわ」  私は彼とモリアを取り囲むような炎を出した。  偽物の私をあてがっても恍惚と愛する彼に、縋った自分はなんだったんだろう。  私は自分が本物のルカリエである証拠に炎を出したが、このまま何もかも燃えて欲しいくらい虚しい気持ちになっていた。
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