51人が本棚に入れています
本棚に追加
24.レオ様、私も一緒に⋯⋯愛してます。
「嘘だろ⋯⋯ルカ⋯⋯お前は誰だ」
赤い炎に囲まれて、レオが私に化けたモリアの首を絞めた。
「ああ、好きです⋯⋯このまま、あなたの想いのままにしてください」
恍惚とした表情を浮かべた私の姿もモリアがレオに囁いている。
「あなたの事が好きな女で、ルカリエの姿をしていたら誰でも良いんでしょ⋯⋯彼女で良いじゃない」
私は思わず予定にない言葉を口走っていた。
私のその言葉がレオの逆鱗に触れたようだ。
「俺が唯一愛しているのはルカリエだ! 君こそが俺の唯一の女神だ! 俺のこの体を君の炎で焼き尽くすことで証明してやる! 俺の炎と混ざり合い君は俺と永遠に愛し合うんだ!」
狂ったように叫ぶレオの言葉と同時に黒い炎がレオを取り巻く。
「陛下⋯⋯レオ様⋯⋯私も一緒に⋯⋯愛してます」
私に化けたモリアは、レオに飛びついた。
「偽物だなんて薄々感じていたよ⋯⋯それでも、ルカリエ、君を抱いていたかった⋯⋯」
レオは自分の出した黒い炎と共に、モリアと消し炭になった。
本当にレオは偽物だと気が付いていたのか、負け惜しみなのかはどうでも良い。
これは、私が全く予想していないことだった。
スグラ王国の力を使い、クリスにレオと別れさせて貰うつもりだった。
(レオの愛が分からない⋯⋯スープ1つでなんなのよ⋯⋯)
「ルカリエ⋯⋯図々しくも君に想いを寄せた男が消えたね。これで、晴れて俺たちは一緒になれる」
私を後ろから愛おしそうに抱きしめてくるクリスを追い払うにはどうしたら良いだろう。
レオを失脚させ、魔法学校の子たちを自由にした後は私はマサス王国をキースに任せてここを去るつもりだった。
本当に好きな人を見つけ、自由を知ったら到底そんな事はできない。
私は彼の腰から剣を抜いて、思いっきり自分の腹に刺した。
クリスが驚愕の表情で見ているが、彼は私がどれだけ彼から離れたいと長年思っていたか気付いていなかったのだろう。
思えば、彼と婚約した時から私は自己中心的で偉そうな彼が嫌いだった。
でも、ずっと彼を愛してるフリをして、そんな真似をしなければいけない自分が惨めだった。
だから自分を騙して、彼を心から愛していると自分自身を必死で洗脳した。
(そんな誤魔化しなんて、本当に好きな人を見つけたらできない。もう、自分自身を騙せないわ)
「何やってるんだ⋯⋯気でも狂ったのか? ルカリエ」
「狂ってしまえればいっそ楽だったかもね。私、ずっとクリスが嫌いだった。あなたを好きなフリを一生し続けるなんで死んでも嫌」
クリスは予想外の私の言葉を受け入れられないのか呆然としている。
私はその表情を見て、冷静になった。
私は、彼のように呆然とすることを許されないような人生を過ごしてきた。
常に尻尾を振らなければ、立場が危うくなる寵愛を頼りにした生活だ。
私はいつだって冷静だった。
私の取り柄は顔だけかもしれないけれど、自分のできることをずっとしてきた。
「クリス⋯⋯他国の丸腰の王妃を刺しちゃったね。廃嫡されるんじゃない? 王位継承権を持つのはあなただけじゃないもの」
私の言葉にクリスが我にかえるのがわかった。
生まれてから王位を約束されていた彼は、国王にならない自分が想像できない。
しかし、アンドレというライバルが現れて心中、穏やかではないはずだ。
「はぁ? ルカリエが自分で刺したんだろ。なんなんだよ。お前は」
彼が大きな声を出したので、騎士たちが一斉に部屋に入ってきた。
「クリス王太子殿下が、私が手に入らないと分かると刺し掛かってきたんです⋯⋯」
クリスの剣には血が滴っていて、この事実を疑うものはいないだろう。
そして、横柄に振る舞ってきたクリスには味方が少ない。
「クリス王太子殿下、マサス王国は敗戦国とはいえ、尊重されるべき一国家。そして、これはルカリエ王妃殿下の名誉を回復される為の戦いではなかったのですか? 心を得られぬからと言って刺し殺そうとするなど!」
苦痛な表情を浮かべながら伝えた近衛騎士団長の言葉に周囲の騎士も同調する。
「お前ら何を言ってるんだ。俺を誰だと思ってるんだ」
クリスが王族とは思えないくらい我を忘れて品のない大声をあげる。
「傾国の美女に夢中で、国をかえりみなかった哀れな男です」
騎士団長のウィザード卿が冷ややかに告げる。
貴族派の首長でもある彼は、元から王権が強すぎるスグラ王国の体制を問題視していた。
ここにきて、クリスの身勝手さを見て見限ったのだろう。
(これで、レオからもクリスからも解放されるの?)
私は目の前がぼんやりしてきた。
ちゃんと綿密な計画をキースと考えていたのに何一つ予定通りうまくいかなかった。
(レオもクリスも想像以上に酷すぎたわ⋯⋯)
振り回せ続けた人生で楽しかったのは魔法学校にいた時だけだ。
1番幸せだったのはキースと一緒にいた時だ。
彼が私を心配してくれて、抱きしめてくれて私の人生は本当に幸せだった。
「ルカリエ!」
その時、私の1番好きな人の声がした。
体がどんどん温かさを取り戻してくのが分かる。
彼の役に立ちたいと思ってたのに、また迷惑を掛けてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!