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8.聞いていたより賢くない方ですね。
「ルカリエ様、聞いていたより賢くない方ですね」
私は突然低く響き渡ったキースの私を蔑むような声に怯えてしまった。
私の呼び名も「ルカリエ王妃」から「ルカリエ様」に変わっている。
王妃に足らない人間だと看做されたのだろう。
「私のことどのように聞いていたかは存じ上げませんが、私は男に愛されることで生き延びているような女ですよ⋯⋯」
他の人とは違う私を批判するような言葉を発してきたキースに対して、私も自分を着飾る事はしなかった。
「賢くないルカリエ様には僕も本音を曝け出します。魔法学校は世界侵略の為に作られましたが、僕はこの魔法学校をマサス王国を滅ぼす為に使うつもりです」
私は彼のとんでもない発言に、思わず身を起こした。
「反逆計画を話しているの? 王妃であるこの私に⋯⋯」
「王妃でしたね⋯⋯国王陛下から逃げ出す機会を伺う王妃」
私は思わずキースの頬に触れ、彼の瞳を覗き見た。
海のように深い青い瞳に飲み込まレれそうになるも、彼が何を考えているかは全く分からない。
「私のことは好き⋯⋯?」
彼が何を考えているか分からないから、とにかく自分の味方かどうかを見定めたくて尋ねた言葉。
「好きですよ。僕と共犯者になりましょう」
キースはそう一言私に返すと、私に深い口づけをしてきた。
王妃である私にこんな事をしたと露見すれば、タダでは済まないと分かっているはずだ。
だからこそ、この口づけは彼の私に対する忠誠であると私は看做した。
「2人の時は敬語もいらない。ルカリエと呼んでくれる? キース!」
長い口づけの間に言った私の言葉に、彼はゆっくりと頷いた。
彼のことを信用しているわけではない。
それでも、反逆計画などと、首が飛ぶような恐ろしい計画を私に話してくれたことに喜びを感じていた。
「ルカリエ⋯⋯実は君が理解できない。国王陛下に寵愛されてるのに逃げたいだなんて⋯⋯」
「私のことを知っているのに、本当に理解できないの? 私、スグラ王国の王太子に愛されていたはずのに、ある日突然捨てられたのよ。もう、男女の愛なんて移り気なものに自分の人生を委ねられるわけ無いじゃない」
私がスグラ王国でどんな目に遭っていたかは有名な話だろう。
当然のように私が発した言葉に、彼は微妙な顔をした。
「魅了の魔法⋯⋯もし、使われていたとしたら君がある日突然寵愛を失ったことに合点がいく」
キースの言葉に私は動揺した。
クリスが自分は「洗脳」されていたという言葉を使っていたからだ。
かといって彼と戻れるかと思うと、私には難しい。
足蹴にされ、私の全てを否定するような言葉を愛する彼から吐かれた。
あの姿を忘れることは一生できないだろう。
「キース⋯⋯モリアというピンク髪をした女性にクリスは夢中になったの。それで、私を攻撃するように!」
私はクリスの恐ろしい程に攻撃的な言葉を思い出して身震いした。
(他の女に夢中になったからって、あんな暴言を彼から聞くなんて⋯⋯)
「モリア⋯⋯レオナルド国王陛下に心酔してた平民のピンク髪か⋯⋯もし、君を手に入れる為に国王陛下が彼女を使って君を陥れたとしたら受け入れられる?」
キースの言葉に頭が真っ白になった。
私は死にたくなるような時を過ごした。
唯一のメシアのように現れたレオの手を取った。
しかし、その死にたくなるような時を演出したのがレオだったとしたなら⋯⋯。
(レオは私を欲しても、私の幸せは願ってくれない人?)
「受け入れられないって顔が言ってるよ。どうする? もし、そうだったら復讐する?」
私はキースの質問に応えられない。
私を追い詰めたクリスも、私を手にいれる為に禁じ手を使ったかもしれないレオも私は一時は愛していた。
「復讐はしないわ。ただ、もしそうであれば逃げたい⋯⋯」
自分でも不思議なことに、先ほどまでレオを愛してたはずの私は消えていた。
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