9.もっと私に夢中になるように。あなたに口づけをしてあげる。

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9.もっと私に夢中になるように。あなたに口づけをしてあげる。

「子を成さないように魔法を掛けたよ」  ため息をつきながら言ったキースの言葉に私は彼の目をじっと見た。 「結婚している以上、愛してなくても子を成す行為をしなくてはならないでしょ⋯⋯」  私から目線を外しながら言うキースに、私は彼がレオの罪を確信していると思った。  流石にクリスの心変わりと、突然現れたモリアの存在は不自然だった。 「そうね⋯⋯でも、恋とか愛とか、平穏な暮らしの前では無意味に感じるわ」  私を愛しているというレオは予想通りなら、私を側に置くことに気を取られても私の幸せは願ってくれていない。  私がスグラ王国で絶望に遭っていたのも彼の企みの一部だとしたら、私は自分の幸せを願ってもくれない男と一緒にいられるだろうか。 「キース、私は火の魔法がつかるかもしれないんだけど、あなたはどんな魔法が使えるの?」  子を成さないような魔法なんて器用に使え、若くして魔法学校の校長になっている彼はきっと特別な存在なのだろう。  私は彼がどれだけの種類の魔法が使えるかが気になった。 「全て⋯⋯僕はここにいる魔法使いとは違う。僕の力は魔女の忘形見なんだ。後天的ではなく先天的に魔法の力を持っているんだよ」  キースは明るく言っているが、私は彼が他とは違うただ1人の存在ということが気になった。  私は長期に渡る王妃教育で誰とも違う孤独な時間を過ごしてきた。  取り巻きはいても、友人など1人もいなかった。  だから、次期王太子妃の立場を失ってからは誰も私を気にかけなかった。 「キース、私と共犯関係になろう。友達になろう。お互いだけが本音を明かせる唯一無二の友達に」  私は反逆計画を王妃である私を前に明かしてくれた彼を信頼した。  それだけではない、決まった運命を辿る人が多い中で突然ハシゴを外された存在。  そう言った意味で私は彼にシンパシーを感じていた。 「友達⋯⋯そんなものいた事ないからピンとこないな」 「実は、私もないのよ。友達なんていたことは一度も⋯⋯」  私たちはそう言い合うとお互いに唇を重ねた。  これが友達とすることかどうかなんて知ったことか。  クリスにも、レオにも感じたことがない同士と思える相手が彼だった。 「ルカリエ、怖い女だね。僕を凋落しようとしてるでしょ。いいよ、君が可哀想だから君の思い通りになってあげる」  唇を離した時に発した彼の言葉は私の期待とは違っていた。 「そ、そうよ。これからも、私の言うことを聞く度に口づけしてあげるからね」  今日会ったばかりの平民の彼に惹かれはじめている等、口が裂けても言えなかった。  自分の秘密の企みを明かしたから特別に感じて彼が気になっているだけかもしれない。  それに、私は彼と接していて初めて自分が今までクリスやレオと接するときは媚びていた事に気が付いた。  彼らの好む淑やかで控えめな自分を演じていたが、本当の私は好奇心旺盛だ。  マサス王国での1年は、レオに囲われていた。  だから、今、私の知らない世界で、今まで出会ったことのない魔女の血を引く男に心臓が高なっている。  彼が他の男のように私に夢中なそぶりを見せてくれれば、私も本音を曝け出せた。  しかし、私の安っぽいプライドが邪魔して自分に心酔してない男に自分が惚れはじめているとは明かせなかった。 「はー! なんか、すげえ優越感。この国の王や裕福なスグラ王国の王太子が夢中なルカリエ王妃が俺に媚び売ってるんだから」  私はキースと自分は通じ合ったと勘違いしていたようだ。  私の振る舞いは、彼を思い通りにする為の行動と捉えられてしまっている。  今の私はいつものように演じていないで、本能のままに動いている。  自分でも可笑しいと思えるくらい、本当は彼に惹かれていた。  両親も、クリスもレオも私を愛してくれたけれど、私を自分を満足させる道具のように考えていることが透けて見えていた。  取り巻きの令嬢も、みんな私をただのルカリエとして見てくれたことはなかった。  私の言葉はいつだって、ふわふわ浮く雲のように軽いもので私も言葉に感情を乗せたことはなかった。  キースに会った時、押し倒された時も、元異国の平民ということもあってか私は武装することなく彼と接した。  彼も本音を晒してくれて、私への口づけは欲情ではなく、対話みたいな感じでされた新鮮なものだった。 「これからも、沢山あなたに媚を売るわ。私って悪女なのよ。だから、私の言う通りにしてよね」  私は苦し紛れの言葉を吐いた。  王妃である私が出ったばかりの平民に惹かれる事など許されない。  そこには愚鈍な恋愛感情ではなく、国家を思った策略がなくてはならない。 「だから、もっと私に夢中になるように。あなたに口づけをしてあげる」  私はキースの上に跨ると、要望のままに彼に口づけをした。
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