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①
5月。緑萌える季節。
ショートカットの髪も、軽やかにして、爽やかな高校生活2年目。
のはずだった……。
私は今、
重い体を引きずって家に帰りつく。
自分の部屋に行くエネルギーすらもうない。
カバンを置き、リビングのソファに腰をおろす。
ふとローテーブルを見るとメモがある。
『詩乃ちゃんへ、お帰りなさい。パートに行ってきます。おやつは冷蔵庫のプリンを食べてね。母より』
お母さんいないのか……。
いたらいたで、私を見て「どうしたの?」とか聞かれて面倒だけど。
学校での出来事が思い出される。
もう嫌! 耐えられない!
クッションに顔面を押し付ける。
涙が、あふれる。
高校2年生になってクラス替えがあった。
1か月たったところで私にたいするいじめが始まった。
玉 梓をボスとした不良グループだ。
タマなんて、猫みたいな可愛い名前をしているのに、やることは陰湿だ。
私の靴を隠す、黒板に悪口、教科書の落書き……その他いろいろ。
くだらない嫌がらせの数々。もういい加減にして!
クラスの他の生徒は、私をいじめてる、わけじゃないけど。無視してただ見てるだけ。みんなタマが怖いのだ。
今日の事だ。
私は、タマに体育館裏に呼び出された。
タマは、野ざらしのパイプ椅子に座ってヘラヘラ笑っている。
私を見つけるとタマグループの5人が、左右から腕を掴む。
何をされるかわからないから、怖い……。
そのままタマの前へ。
「な、なんですか……」
ビビる私。
「詩乃、ちょっちお願いがあるんだけどなあ」
タマは、ヘラヘラ顔で言う。
「な、何」
「駅前の本屋にさあ、欲しい本が何冊かあるんよ。あれ買ってきてよ。代金は後で払うからさあ。五千円」
「え……。五千円なんてお金持ってないです……」
「ほんじゃあ、あれだね。こっそり本だけでも持ってきて」
「え、それって、万引き?」
「できないなら、いいし。他の奴に頼むから。誰にしようかなあ」
「それはやめて…ください。わかりました。あ、明日買ってきます」
「明日ぁー、まあ、しょうがないか。じゃあ明日な。このことは親や先生に言うなよ」
タマは、そう言って、私に顔を近づける。これが怖い。
そんじゃあな、と言ってタマグループは帰っていった。
私は、どっと力が抜ける。
どっちにしても、なんとかしなければ、私の代わりに他の友だちがいじめられる。
誰も私を助けてくれないけど、他の人がいじめられるのを見るのも嫌だ。
でも五千円なんて……。
貯金とかはあるけど、ここでお金を出したら、絶対次は一万円になるんだ。
どうしたらいいの。
クッションに顔を埋める。
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