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⑩
ついにタマが立ちあがった。タマからは、怒りじゃなく恐れの臭いが漂ってきた。
タマは、わたしを怖がってる。
「詩乃。お前ホントに犬みたいだな。あたしは犬が大嫌いだ。どっかへ行きな」
「何言ってるの。ホントは犬が怖いんでしょ」
この言葉でタマの恐れの糸がプチンと切れたみたい。みるみる目がつりあがり顔つきが変わったよ。
臭いも恐れから怒りに変わった。
タマはポケットに手を入れた。嫌な臭い。金属の臭いがする。最高にヤバい感じ。
ポケットから手を出したタマは、ナイフを持っていた。折りたたみナイフだ。素早く手を振ると刃先が飛び出した。
その動き方が慣れた感じで怖い。
ナイフを振り回されたら、かわして逃げられるだろうか。
投げてきたらどうする?
マジヤバい。どうしたらいいのエイト!
タマが腰を低めて飛びかかろうとする姿勢になった時、
「ワン! ワン! ワン!」
犬の鳴き声。エイトが走ってきている。その後ろからクラスの生徒、さらに先生も。
それを見ているわたしの隙をついて、タマがナイフを突き出した。
間一髪!
エイトがタマの腕に噛みついてナイフの矛先を変えた。わたしは、後ろに飛びナイフをよけることができた。
「くそう、この犬!」
タマが再び、ナイフを振るおうとした時、先生がその腕を掴んでいた。
「玉さん! やめなさい」
タマは、ナイフを手から落として観念する。その後、子分たちとともに数人の先生に校舎に連れられて行った。
わたしは、その場にへたり込んだ。エイトが飛びついてわたしの頬をなめる。
クラスの友だちの一人が言った。
「その犬がね。教室に飛び込んできて。私の袖を噛んでどこかへ連れていこうとするの。何か嫌な予感がしたんで、先生にも来てもらって、犬について行ったら、里見さんと玉さんが……」
「そっか、エイトありがとう。ホントに助けに来てくれたのね。みんなもありがとう。タマたちは、退学か停学ね。でも、わたしには、しばらくこの能力が必要かもしれない。もうちょっと貸してもらってもいいかな? エイト」
「ワン! ワン! ワン!」
みんなにはそう聞こえたけどエイトはこう言ったんだ。
『いいとも。ぼくはいつも詩乃といっしょだよ』
おしまい
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