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『そうだよ、詩乃ちゃん。ぼくだよ、エイトだよ』 姿勢の良いお座りポーズの犬が、私を見ながら漂っている。 犬がしゃべってる! でも口は動いていない。 『テレパシーだよ。詩乃ちゃんの脳と直接話してるんだ』 『え、え、犬って、言葉がわかるの? おしゃべりができるの?』 『わかるよ。おしゃべりと言うよりは、気持ちが通じているんだ』 『はあ? 何かよくわからないけど。ここはどこ?』 『詩乃ちゃんとぼくが繋がった心の世界だよ』 『エイトと私が同じ夢の中にいるみたいなもの?』 『そんな感じかな』 犬って、意外とざっくり答えるんだ。 『何で、私がここにいるの? これはエイトがやってるの?』 『そうだよ。詩乃ちゃんを助けるために、ここにきてもらったんだ』 『助ける? エイトが? 私を?』 『詩乃ちゃんは、ぼくを助けてくれた命の恩人だ。今度は、ぼくが詩乃ちゃんを助ける』 『命の恩人だなんて……。ただ、両親に頼んで飼ってもらっただけだよ』 『でも、それでぼくは、生きのびることができた。生き物にとって生き残ることは最大の栄光なんだよ』 『なんか、大げさ……』 『大げさなんかじゃない。地球上の生き物にとって、生きているってことは、奇跡なのさ。どんな状況であろうとも、生きているってことは、それだけで勝ちなんだ』 『そうかな。私なんかいじめられて、生きているのがつらいよ……』 『いじめなんかされても、詩乃ちゃんさえ、自分をしっかり守って、生きていれば、それで勝ちなんだよ』 『それが、できればそうしているよ。でも、私なんかにそんな力はないし。心も折れてるし。もうどうすればいいか、わからないの』 『自分を守るにはね、逃げるか、誰かに助けてもらうかだね。これができれば勝ちだよ。後は……』 『え? 後は?』 『戦う事かな』 『それは、無理、無理、無理。戦うって喧嘩でしょ。かなうわけないよ。ボコボコにされるだけ』 『戦う事は、喧嘩だけじゃないよ。詩乃ちゃんが、相手の思う通りにならない事。これも戦う事なんだ』 『いや、それも無理、無理、無理。タマのいう事を聞かないと、何されるかわからないし。逆らうのも怖いし』 『だから、ぼくは詩乃ちゃんを助けるよ』 『え! エイトが助けてくれるの? タマのグループに噛みつくの? でもエイトは小さいから大丈夫?』
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