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③
『そうだよ、詩乃ちゃん。ぼくだよ、エイトだよ』
姿勢の良いお座りポーズの犬が、私を見ながら漂っている。
犬がしゃべってる! でも口は動いていない。
『テレパシーだよ。詩乃ちゃんの脳と直接話してるんだ』
『え、え、犬って、言葉がわかるの? おしゃべりができるの?』
『わかるよ。おしゃべりと言うよりは、気持ちが通じているんだ』
『はあ? 何かよくわからないけど。ここはどこ?』
『詩乃ちゃんとぼくが繋がった心の世界だよ』
『エイトと私が同じ夢の中にいるみたいなもの?』
『そんな感じかな』
犬って、意外とざっくり答えるんだ。
『何で、私がここにいるの? これはエイトがやってるの?』
『そうだよ。詩乃ちゃんを助けるために、ここにきてもらったんだ』
『助ける? エイトが? 私を?』
『詩乃ちゃんは、ぼくを助けてくれた命の恩人だ。今度は、ぼくが詩乃ちゃんを助ける』
『命の恩人だなんて……。ただ、両親に頼んで飼ってもらっただけだよ』
『でも、それでぼくは、生きのびることができた。生き物にとって生き残ることは最大の栄光なんだよ』
『なんか、大げさ……』
『大げさなんかじゃない。地球上の生き物にとって、生きているってことは、奇跡なのさ。どんな状況であろうとも、生きているってことは、それだけで勝ちなんだ』
『そうかな。私なんかいじめられて、生きているのがつらいよ……』
『いじめなんかされても、詩乃ちゃんさえ、自分をしっかり守って、生きていれば、それで勝ちなんだよ』
『それが、できればそうしているよ。でも、私なんかにそんな力はないし。心も折れてるし。もうどうすればいいか、わからないの』
『自分を守るにはね、逃げるか、誰かに助けてもらうかだね。これができれば勝ちだよ。後は……』
『え? 後は?』
『戦う事かな』
『それは、無理、無理、無理。戦うって喧嘩でしょ。かなうわけないよ。ボコボコにされるだけ』
『戦う事は、喧嘩だけじゃないよ。詩乃ちゃんが、相手の思う通りにならない事。これも戦う事なんだ』
『いや、それも無理、無理、無理。タマのいう事を聞かないと、何されるかわからないし。逆らうのも怖いし』
『だから、ぼくは詩乃ちゃんを助けるよ』
『え! エイトが助けてくれるの? タマのグループに噛みつくの? でもエイトは小さいから大丈夫?』
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