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⑨
休み時間、わたしは落書きされた教科書を持ってタマの前に立った。
「この落書き、あなただよね」
「何でわかんのさ。証拠でもあんの」
「証拠なんていらない。あなたがやったのは、わかってるから」
「あたしじゃないから。舟虫じゃね? それより金持って来たか。放課後に体育館裏で待ってるからな」
タマはそう言ったきり、わたしから目をそらして窓の外を見ていた。
不思議とその日は、もうタマグループから嫌がらせを受けることはなかった。その代わりか、他の友だちがタマグループに悪さをされている。
あの子たちは、昨日までのわたしだ。みんな、何で逃げないの? 助けあわないの? 戦わないの?
わたしも何をしていいか、わかんないけど。でも、わたしは、決めたの。逃げて、助けてもらって、そして……戦う。怖いけど戦う。そのためにエイトは能力を貸してくれたんだから。
放課後、わたしは体育館裏に行った。エイトの言葉を思い出しながら。
『詩乃ちゃん。大丈夫。君はきっとうまくやれるから。ぼくを信じて。それから、自分を信じて思う通りにするんだ』
胸が熱くなる。これがエイトの闘志なんだ。
昨日と同じ。
タマは、野ざらしのパイプ椅子に座ってる。そのまわりに舟虫や子分。5人いる。
昨日と違うのは、タマがヘラヘラしていないんだ。
「詩乃、金は持ってきたか?」
タマは、脅してきた。何か、臭いが変だ。教室でいる時のタマの臭いじゃない。
「ごめんなさい。お金はありませーん」
わざとらしくていねいに答えた。タマから強い臭いが噴き出た。
これって、怒ってるんだ。タマが怒ってる臭い!
「ふざけんなよ。お前らちょっとこのワンちゃんに躾を教えてやんな」
タマのひと言で5人の子分が、わたしに襲いかかって来た。
まず逃げるんだ! わたしは子分が、殴ってきたり掴んできたりするのを走ったり、フットワークでよけた。誰一人として私に触れることはできない。
これが、エイトの足の力! やがて5人は、はあはあと苦しそうになる。足元がフラフラしてるし。殴ろうとして、振りかぶろうとする手が上がらない。
みんな疲れたんだ。汗の臭いだらけ。
ひとりひとりと地面にへたり込んでいく。
「わおーーーーん!」
自然と遠吠えがでた。自分を信じて体の動くままにまかせる!
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