Ⅲ章

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Ⅲ章

 日本からフランスまでは飛行機で十三時間はかかる。順也達は午後四時の成田空港発の飛行機に搭乗した。その間順也は映画を見て過ごし、雅貴は常にパソコンを操作していた。伊織は機内食を堪能した後は寝て、翼も彼女と同じように過ごした。  フランス、シャルル・ド・ゴールド空港には現地時間の朝の九時に到着した。日本とは七時間の時差があり、既に日本で過ごしたはずの朝九時をもう一度過ごすことになる。入国審査を済ませ、(順也達は表向きは商談と言うことで入国)荷物を受け取ると、空港の外に出る。飛び交う言語が聞き慣れないフランス語になる。更に日本ではあまり見ない、石造りの建物が並んでいる。 「ほんでまずはどないすんねん」 「ではこちらについてきてください」  雅貴はツアーガイドのように先に一人で歩いていく。三人は顔を見合わせ、雅貴について行く。外にはタクシーが停まっていたが、そちらには目をくれず一台の車へと向かう。アストライアのフランス支部が手配した車である。四人は乗り込むと、運転手が英語で話し出す。 「ようこそ、フランスへ。今から王子を匿っている城へ向かう」  王子とは珠樹のことやろう。雅貴は運転手と何か話し出すが、後部座席に乗っている順也と伊織は窓からの景色を眺めていた。 「うわ、やっぱり街並みがお洒落だな」  伊織は車窓から街の景色を眺める。 「早く任務終わらせてフレンチとスイーツ食べまくろ」 「そう言うて任務中も食べるやろ」 「まあね。その為にこの仕事しているし」  伊織はにやりと笑う。 「そう言えば、洋介が伊織と飯に行きたいって言うとったから、日本に帰ったら行ってくれへんか」  順也は顔なじみの警察官のことを思い出す。しかし。 「……洋介って誰だっけ」  伊織は考え込んでしまった。 「洋介、今頃泣いとるわ」 「藤原洋介さんは顔の綺麗ないかにも警察ですって言う人ですよ。何度か話したことありますよね」  順也と伊織の間に座っている翼もフォローするが、伊織は何とか思い出そうとしている。 「うん、何かそんな人居たような気がする……」 「あいつ、伊織がパンケーキの為に三時間待ったって言うたら、三時間なんてすぐ終わるって言うとったで。一緒に行ってくれるんちゃうん」 「本当? でも警察官ってお堅そうだよね」 「まあ一回くらい飯行ってもええやんけ」 「そうだね」  洋介。何とか伊織と交渉したで。今度奢って貰おうと思っていると、車は停車した。  車から降りると、見るからに高級そうなホテルで下ろされる。扉の前には門番のようにドアマンが立っており、気軽に立ち入れる雰囲気ではない。 「確かに城やな」  運転手の言葉は比喩表現かと思ったがそうではなかった。 「随分と高そうなホテルだけど、ここに泊まれるの?」 「まあね」  伊織の質問に雅貴は意味ありげに笑う。 「いつも野宿する方がマシなんじゃないかってくらいの劣悪なホテルに泊まってたのに、急にどうしたんですか」  翼は信じられないと言った様子で尋ねる。 「大方坊ちゃんサイドに指定されたホテルなんやろ」 「それもあるけど、アストライアのフランス支部の目が届くホテルだからね。色々動きやすいってわけ」  雅貴はじゃあ行くよと言うので、三人は後をついて行く。荷物を持っているとすぐにベルボーイが運び、雅貴はチェックインの手続きをする。三人はロビーで出されたシャンパンとジュースを飲んでいる。 「もうこの時点で今回の任務を引き受けて良かったと思うわ」  伊織は満足そうにシャンパンを飲み干す。雅貴が戻ってくると部屋に移動する。 「とりあえず、各自荷物を置いたら八〇二号室の前に集合ね」  雅貴は日本語で言うと、すぐにベルボーイと英語で喋り始める。順也は宛がわれた部屋に入ると、一人で泊まるにはもったいないくらいの広さの部屋であった。順也はスーツケースを置いて、そのままベッドに倒れこんだ。 「ふかふかやん」  柔らかさから高級ベッドであることは間違いない。 「今回はフランスか……」  順也は寝返りを打つ。フランスを訪れるのは二回目である。一回目はまだ見習いの頃、テロを企てている組織を事前に拘束する為にやって来た。そのテロ組織の構成員に日本人が居ることから派遣されたが、結局アストライアのフランス支部がとっ捕まえ、犯人を日本の公安警察に引き渡して任務は終わった。ようするに祭りに行ったが、向かっている最中に終わってしまったようなものだ。今回の任務も無事に終わるとええけどな。失敗した場合、死ぬことだってある。もう日本に帰れられへん。いや、後ろ向きなことは考えたらあかん。  順也はベッドから起き上がり、指定された八〇二号室に行く。大方ここに護衛対象の珠樹が居るのだろう。部屋の前には既に雅貴と翼が立っていた。順也の後から伊織がやって来る。雅貴は扉を叩いた。 「アストライアの日本支部から派遣された東城です」  扉が開かれ、雅貴は手で入れと合図をする。 「お待ちしておりました。遠路はるばるありがとうございます」  部屋に入ると、珠樹の世話係の橋本陸郎が深々と頭を下げた。陸郎はプロフィールを見たところ、今年で七十歳だと言う。髪は白髪で年相応の風貌であるが、お辞儀の仕方と立ち姿は品がある。 「休む間もなくここまで来られたのでしょう。あちらへ座ってください」  陸郎は四人を部屋の奥へと案内する。この一室はスイートルームなのか、オフィスのように広い。中央にダイニングテーブルがあり、奥にはソファが向かい合って置いてある。その一つに人が座っていた。三人は腰を下ろせるソファにも関わらず、堂々と中央に座っている。明らかに不機嫌そうな顔つきの珠樹が順也達を一瞥した。 「遠慮せずにこちらに座って下さい。ただ四名は座れないので、一人はこちらの椅子にお座りください」   陸郎は予め用意していたのか、ダイニングテーブル用と思われる椅子をソファの横に置いている。 「先輩達、どうぞ」  翼は椅子の方に行き、順也達三人にソファに座るように促す。ソファには伊織、雅貴、順也の順番で座る。 「今コーヒーか紅茶をお持ちします」 「お構いなく」 「いや、給仕が趣味なのでやらせてください」  好々爺の言葉にさすがの雅貴も断ることは出来なかった。全員コーヒーを頼むと、陸郎は何故だか嬉しそうに準備をする。対して珠樹は居心地悪そうにスマートフォンを操作する。順也はこの微妙な空気を打ち破ろうと口を開いた。 「ずっとフランスに住んどるのか」 「……」  珠樹は順也をちらりと見て、すぐに視線をスマートフォンに戻した。 「シカトされたんやけど」 「まあ。初対面だし、まだ挨拶もしてないから」  雅貴に慰められていると、コーヒーの香ばしい香りが部屋の中に充満し始める。 「お待たせしました」  陸郎は順也達と珠樹の間にあるテーブルの上にコーヒーとお菓子を置く。 「マカロンだ」  伊織は目を輝かせる。 「どうぞ召し上がってください」  まるでレストランにでも来たかのような待遇である。 「ではいただきます」  一息ついたところで雅貴が口火を切った。 「事前に連絡があったと思いますが、私達はアストライアの日本支部から護衛の為にやって来ました。東城雅貴です。私はチームのリーダーと裏方をやっています」  雅貴は軽く頭を下げると、順也と見やる。 「こちらがエージェントの麻倉順也と橘伊織」  順也はよろしゅうと言ったが、またしても珠樹は何も反応をしなかった。 「そして加賀美翼です。この三人が珠樹さんを護衛する予定です」 「ありがとうございます。改めまして、瀬戸珠樹様と私は橋本陸郎と申します」  丁寧に会釈する陸郎とは打って変わって、珠樹は何も言わない。不愛想な奴やなと順也は思う。 「それで一応組織の方から話を聞いているのですが、襲撃されたんですか」 「ええ……」  今までにこやかな笑みを浮かべていた陸郎の顔が曇った。 「暗殺者が珠樹様を狙って来たのは一昨日。珠樹様がご就寝されている時ですよね」  陸郎が珠樹に視線を送る。 「そう。なんか目が覚めてぼんやりしてたら、刀持った男が立ってた」  珠樹は初めて口を開いた。 「それはホラーやな」  順也が言うと、珠樹が視線を合わせた。 「普通だったら騒ぐけど、あの時は深夜だったし、なんか夢なのか、現実なのか分からなくて、あんた誰って言ったんだ」  珠樹はあの晩のことを思い返す。  元々不眠症で深夜に度々目が覚めてしまう珠樹はあの夜も深夜に目覚めた。トイレに行こうか迷ったが、ベッドから降りるのが面倒でまた眠るように深く目を閉じたが意識がなくなることはなかった。何度か寝返りを打っていると、暗闇の部屋で何かが動いた気がした。 見間違い? 幻覚? 部屋の中央に何かいる気がする。  珠樹は起き上がってベッドの横のサイドテーブルのランプを点けた。どうせ何もいない。そうは思ったが、“何かいる”と思ったままでは、眠るのも難しい。 ランプによって部屋は明るくなり、見ると。 珠樹は驚きのあまり、声が出なかった。身体が硬直し、心拍数が上がる。 部屋の中央に男が立っていた。 男はじっとベッドに座っている珠樹を見つめる。 「……あんた誰」  珠樹は訳が分からずに尋ねる。自分でも何故冷静なのか、不思議で仕方なかった。 「瀬戸珠樹」  男は珠樹の名を呼ぶ。 「お前を殺す男だ」  男は抑揚のない声で告げた。 「ふうん。でも俺を殺したら、盗んだデータの在りかは分からないよ」  珠樹は自分が夢でも見ているのではないかと思う。でなければ、自分を殺しに来た男と平気で会話出来ないだろう。よく見たら鞘には入っているが、右手には刀のようなものを握っている。 「情報を吐かせてから殺す」 「拷問するってこと?」 「そうだ」  男は微動だにしない。いつその右手に持っている刀で珠樹に切りかかるか分からない。それでも何故か、珠樹には自分が殺されると言う自覚はなかった。まだ頭が寝ぼけているのか、自暴自棄になっているのか。もしくはその両方である。 「じゃあ、どうぞ。ここで寝てるから」  珠樹はそう言うと、起き上がっていた上半身をベッドに寝かせる。珠樹にとって拷問など非現実的過ぎるし、されたらされたでどうでもよかった。 「お前、暴力や死への恐怖はないのか」  初めて男の声色が変わった気がした。今までは機械的に話していたが、今は疑問と言う感情が含まれている気がした。 「痛いのは嫌だし、死ぬのも怖いけど。でも絶対にいつか死ぬ。早いか、遅いか」  珠樹は天井を見ながら答える。ルームランプの黄色の光がぼんやりと照らしている。 「どれだけ金を持っていても権力があっても、悪人でも貧乏でも、死は平等にやって来る」 「驚いた。お前がそんな風に哲学的に物事を見ているとはな」 「俺の何を知ってるんだよ」  珠樹は再び起き上がる。 「お前は朝を迎える前に、今数分後に殺されることに対して恐怖を抱かないのか」 「……なんかもうどうでも良いよ」  珠樹は自分で言って物悲しくなった。 「別に生きていて楽しいことなんてないし、俺の周りはおかしい奴ばっかりだし」 「おかしい奴とは?」 「知ってんだろ。俺の親父は社長としては凄い奴だけど、傲慢で女遊びばっかで人として最低な人間だ。姉貴はお前みたいなの寄越してくるし、どうせ姉貴に依頼されて殺しに来たんだろ」 「その通りだ」  男は答える。 「俺に寄って来る奴らも俺じゃなくて権力の為に近づいてくる。まあ俺がこんなんだから、同じような連中しか来ないのかな……」   珠樹は自嘲するが、男は何も答えなかった。 「でも陸郎だけはいつも俺の傍に居てくれて、正しいことを教えてくれた……」  珠樹は脳裏に幼少期から自分の世話をしてくれた執事を思い出す。いつも柔和な笑みを浮かべていて、実の父親よりも長く過ごしている。年齢だけで考えると、陸郎は珠樹の祖父に思えるが、本当の父親のように思っている。 「俺のことは殺しても何しても良いけど、俺の執事の陸郎だけは、何もしないで」  珠樹は初めて男の顔を見つめた。正確には顔があると思われる場所である。暗闇でよく分からない。 「……今日は、お前の度胸に免じて殺すのをやめる」  男は静かに告げた。 「俺は何人もの人間を切って来た。既に余生を楽しんだであろう七十を過ぎた老人が死にたくないと泣きわめいていた。欲しいものは何でもやると命乞いをしてきた奴もいる。みっともなく生にしがみつく愚か者を俺はただ切った。しかしお前は肝が据わっている」  男は闇の中で少しだけ笑い声を立てた。 「せいぜい執事と最後の時間を楽しむんだな」  そう言うと、初めて身体を動かした。珠樹に背を向けたのだ。 「おい、待てよ!」  珠樹は思わず男を呼び止めた。 「あんた、名前は?」 「……」  男は珠樹に背を向けたまま、数秒黙り込む。 「……小早川(ひじり)だ」  それだけ告げると、部屋から去って行った。珠樹は今の数分の出来事が夢の中のものなのか、現実なのか分からなかった。  しかし翌日、家の警報器が破壊されていたことから男、小早川聖が来訪したことが現実であることを悟る。 「完全に漫画の世界からやって来たみたいな男やな」  珠樹の話を聞き終えた順也は率直な感想を述べる。 「その小早川って人はこんな感じ?」  雅貴はパソコンを開いて操作すると、画面を珠樹に見せる。 「……暗くてちゃんと顔は見えなかったけど。たぶん、こいつ」  珠樹は頷いた。 「こいつは名前が分からない正体不明の殺し屋として有名なんだよね。そんな男がわざわざ名乗るなんて、相当気に入られたみたいだね」 「意味分かんねえ」  雅貴の言葉に珠樹は顔を顰める。 「それでこれからどうすんの」 「たまちゃんの出方次第だよ」 「たまちゃん……」  珠樹はまるで自分のあだ名ではないかのように復唱する。 「そもそも何故命を狙われているのか、それはお姉さんの珠世がたまちゃんを抹殺して社長の座につきたいから。つまり暗殺を止めるには今いる暗殺者と珠世を何とかする必要がある。仮に暗殺者を捕まえても新しく雇えるし、珠世本人を何とかした方が良い」  雅貴の言葉に珠樹は俯いた。 「現状たまちゃんが暗殺されないで済んでいるのは珠世から盗んだ機密データのおかげ。ちなみに中身は何なの?」 「数分前に会ったばかりの人間に言う訳ねえだろ」 「……まあ、確かに」  雅貴は苦笑する。 「中身は何か知らないけど、殺し屋を雇うくらいだから相当自分の保身に関わるものだと思う。もしそのデータが犯罪に関わることなら、警察に提出すれば珠世は逮捕出来るかもしれないし、殺し屋軍団も解散か俺達が何とかする。これが一番手っ取り早い方法」  珠樹は雅貴の言葉を受けて、初めて表情が変化した。今は迷いの感情が顔に現れている。 「ただデータを持っているだけなら、俺達が追って来る暗殺集団を倒し、珠世に諦めて貰うしかない。それかもう一度、データと引き換えに珠世に暗殺を止めるように交渉するか。まあ、どちらもどれくらいの時間を要するか分からないけど。で、どうする?」 「……」  珠樹は黙り込んだ。場は静寂に包まれる。決断するには珠樹だ。 「……出来れば、データは誰にも見せたくない」  絞り出すように珠樹は答えた。 「ってことは俺達が暗殺者軍団を倒すしかないってことやな。明快でええやん」  順也のお気楽な声が重くなった場を少しだけ明るくする。 「じゃあとりあえずはたまちゃんにはいつも通り過ごして貰って、俺達が護衛する。既に社長の座に就いて、データも持っている俺達の方が圧倒的に有利だ。だから向こうは必ず仕掛けてくる。そこを叩く」 「分かった。それで護衛ってSPみたいな?」  珠樹は腹を括ったようで、雅貴の話に耳を傾けるようになった。 「いや、向こうは俺達の存在に気が付いていないと思うから、気付かれるまでは影から監視する。ただし日常業務の時にも一人は一緒に居た方が良いと思うから、誰か会社に潜入する必要があるかな」 「そのことなのですが」  今まで黙っていた陸郎は遠慮がちに声を出す。 「珠樹様の社長の業務には秘書が必要と言うことで私が探すと言うことで会社に話はついております。そこでこの中のどなたかが秘書として潜入して頂けないでしょうか」 「おお、それは助かります」 「陸郎さん、さすがやん」  雅貴と順也の言葉に陸郎は微笑んだ。 「……それ、俺にやらせてくれませんか」  今まで黙って話を聞いていた翼が進言する。 「マサさんは俺達に指示したり情報を集める必要があります。伊織さんも潜入出来ると思いますが、いざと言う時の援護、狙撃をお願いするかもしれませんし、先輩は潜入しても二、三日でボロが出そうじゃないですか」 「なんか俺だけ悪口言われてへん?」  順也の言葉に誰も反応を示さなかった。 「だからここは俺が一番適任だと思います」 「そうだね。俺は良いと思うよ」  雅貴も同意する。 「たまちゃんは良いかな? 翼はたまちゃんと同い年だし、護衛としての戦闘力も申し分ない」 「……まあ、良いけど」  珠樹はちらりと翼のことを見て頷いた。 「あのさ。いつ言おうか迷ってたんだけど……」 「何?」 「俺、明日パーティーあるんだけど」  珠樹の告白に柔和な笑みを浮かべていた雅貴の顔が硬直する。 「パーティー? こんな有事の時にお気楽やな」 「遊びじゃなくて仕事の」  順也の言葉に珠樹は苛立ちを見せる。 「俺だってクソみたいなパーティー行きたくねえよ。でも取引先がたくさん来るし、今後の会社の為にもどうしても行っといた方が良いと思って……」 「意外と社長業にやる気じゃん」  伊織はお菓子をつまみながら言う。 「違えよ。姉貴は一応血の繋がってる弟を殺そうとする人間だぞ。そんな奴が会社のトップになったら、何するか分からねえだろ」 「確かに。邪魔な取引先とか消しそうですよね」  翼の言葉に珠樹を頷く。 「意外と思いやりのある奴なんや」 「うるせえな」  珠樹は順也を睨みつけると、顔を顰める。 「てかさ、護衛が来るって言うから数多の修羅場を潜り抜けて来たベテランでも来るのかと思ってたら、俺と同年代の奴で本当に大丈夫なの?」  珠樹は順番に順也達を見やる。 「関西弁の何でも勢いで解決しそうな男に、さっきから菓子ばっか食ってる性格きつそうな女、ずっとぼんやりしてる男。眼鏡の人は仕事出来そうに見えるけど」  どうも~と一人褒められた雅貴は笑みを浮かべる。 「珠樹様、それはあまりにも失礼ですよ」 「そうだ、そうだ! まああんたの言う通り、この男は馬鹿だから何でもかんでも突っ込んで解決する男だけどさ」 「はあ? 自分かて食べること中心の性悪女やないか」  珠樹を諫めた陸郎が困ったように二人を見る。 「すみません、いつものことなので……」  と翼が苦笑する。 「まあでも、俺がたまちゃんの立場でもそう思うよ。こんな同年代が護衛で大丈夫かなって。でもね」  雅貴はにやりと笑う。 「俺のチーム、最強だからさ」 「……ふうん」  珠樹は鼻で笑う。 「延命出来るみたいで良かった」
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