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 蒼が座敷へ行くと、蘇芳は蒼白な顔をして眠っていた。  夏掛け布団を掛けた胸が、苦しげに上下に動いていた。  彼は自分が生きているのか、死んでいるのか、それすら解っていかの様に曖昧な気持ちで存在していた。蘇芳は自分が死ぬ日を知っているのだろうか。双子の蒼にも、それは計り知れなかった。  蒼は新しい氷嚢を持って、それを蘇芳の火照った額に当てた。すると、彼は薄く眼を開いた。  蘇芳の瞼は、痩せたせいで少し窪んでいた。白い貝殻の様な薄い瞼だ。長い睫毛をした、切れ長の眼の瞳が蒼を凝視した。 「兄さん・・・」  呟くように蘇芳は声を漏らすと、夢見心地な表情をした。 「兄さん。ずっと側に居て。手を握っていてくれないか?」  蘇芳は、細い白い腕を伸ばす。  白地に紺の絣模様の寝巻きの袖から伸びた腕は、宙を掴んでいる。  やがて蒼がその手を捕まえるように無言で取った。熱で、熱い手だった。  蘇芳はそんな兄の手をしっかりと握り締めると、障子の隙間に人影があるのを見付けた。きっと、誠に違いない。  蘇芳は不敵に嗤った。  
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