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二人は並んで歩いている。
蒼は片腕に本を抱いていた。誠は時折、空を見上げた。
その時、飛行機雲が頭上を横切った。
「飛行機雲だ」
誠は思わず歓声をあげて、空に指を指した。
「本当だ」
蒼も、空を見上げた。
「綺麗だ」
誠は独り言のように呟いた。
「そうだね」
蒼は頷く。彼の端正な横顔は、飛行機のジェラルミンのように輝いていた。
みかげ石の丘陵を登って行くと、地面に陽炎が、見えた。誠も蒼も無言のまま歩いて行く。
少年たちの足元には、短く濃い影がくっきりと映る。
誠の脚に、鈍色に光る地面が吸い付き、気だるく重たかった。だが、蒼は軽やかに歩いた。
二人はやがて、鬱蒼と濃い緑の茂る、八坂家の屋敷へと到着した。
双子の祖母が用心の為に、昼間でもつけてある軒灯が、薄ぼんやりと仄かな光を放っていた。
「ここから上がって」
緑蔭のから、蒼が誠を呼んだ。
誠は頷いて、蒼の案内する縁側で靴を脱いだ。それを、沓脱石の上に置くと、屋敷の中へ入る。
蘇芳はまだ帰っていないようだったが、時期に帰って来るであろう。
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