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 真昼の太陽は、けいけい炯々(けいけい)と天空に浮かび、ギラギラと地上に熱い光線を、降り注いでいた。  誠は、双子の屋敷へと向かって、坂道を登っていた。  閑静な住宅街は時々、日傘を差して歩く婦人や、子供たちが行き来していた。誠は、口を結んで歩いて行く。  暑さのせいで、薄水色の木綿のシャツが、汗ばんで肌に張り付いていた。不快だった。  双子の屋敷は、段々と近づいて行く。  歩道に植えてある百日紅(さるすべり)が、綿のような白い花を咲かせていた。誠は時々、花を見上げた。一筋の風が通り過ぎて、百日紅の樹を揺らした。  アスファルトの地面には、誠の短い影が色濃く映っている。  坂道を上がり切り、神社を右手に行き越えると、鬱蒼とした木々の生い茂る場所があった。  その暗がりに目立つ仄暗い大きな旧家の屋敷が、双子の家だった。  誠は、大きな黒い革張りの祖父から譲り受けた形見のトランクを持って、足早に歩き続けると、やっと双子の屋敷へと着いた。  烏瓜の絡まる門扉へ行くと、屋敷の二階の窓から蒼が偶然にも顔を出した。 「誠、暑いだろう?早く上がって来いよ」 「ああ」  誠は短く返事をすると門扉を開けて、屋敷の敷地内へおずおずと入った。  昨日もこの屋敷へ訪れたが、泊まるというのは久しぶりであった。
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