2/6
前へ
/22ページ
次へ
 まだ誠や蒼と蘇芳の双子が七歳くらいの頃だったろうか、誠は草木に囲まれた不思議なこの屋敷に、自ら泊まってみたいと、まだ健在だった双子の両親に申し出た。  しかし、幽霊が出そうだと言って、せっかく良く歓迎し、もてなしてくれた双子の両親には申し訳ないのだが、夜中になって誠が座敷で怖がって帰りたいと泣いて、泊まらずに誠の母に迎えに来てもらって、帰ってしまったのだった。    双子の両親は、五年前に交通事故で亡くなっている。  今でも、双子の両親か何かの幽霊の一体や二体は出そうな雰囲気であるが、誠はこの屋敷の独特さが好きだった。  玄関の中は、ひんやりとして心地よい。  誠は靴を脱ぐと、二階からタンタンと人が降りて来る音を聞いた。  蒼だった。  彼の弟の蘇芳は、どういう訳だが姿が見えない。誠が訪ねて来ると、必ずといっていい程に姿を現す少年である。 「蘇芳はどうしたの?」 「夏風邪。座敷で寝てるよ」 「そうなんだ。昨日は元気そうだったのに・・・」 「直ぐに良くなると思うから、大丈夫だよ」  蒼は、蘇芳の事なら誰よりも一番よく知っているし、側に居る人間だ。  「それよりも、暑かったろ。冷えた麦茶、持って来るよ」 蒼は、話題を変えて少し笑って言った。 「ありがとう!」 誠は笑みを、蒼に返した。  
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加