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まだ誠や蒼と蘇芳の双子が七歳くらいの頃だったろうか、誠は草木に囲まれた不思議なこの屋敷に、自ら泊まってみたいと、まだ健在だった双子の両親に申し出た。
しかし、幽霊が出そうだと言って、せっかく良く歓迎し、もてなしてくれた双子の両親には申し訳ないのだが、夜中になって誠が座敷で怖がって帰りたいと泣いて、泊まらずに誠の母に迎えに来てもらって、帰ってしまったのだった。
双子の両親は、五年前に交通事故で亡くなっている。
今でも、双子の両親か何かの幽霊の一体や二体は出そうな雰囲気であるが、誠はこの屋敷の独特さが好きだった。
玄関の中は、ひんやりとして心地よい。
誠は靴を脱ぐと、二階からタンタンと人が降りて来る音を聞いた。
蒼だった。
彼の弟の蘇芳は、どういう訳だが姿が見えない。誠が訪ねて来ると、必ずといっていい程に姿を現す少年である。
「蘇芳はどうしたの?」
「夏風邪。座敷で寝てるよ」
「そうなんだ。昨日は元気そうだったのに・・・」
「直ぐに良くなると思うから、大丈夫だよ」
蒼は、蘇芳の事なら誰よりも一番よく知っているし、側に居る人間だ。
「それよりも、暑かったろ。冷えた麦茶、持って来るよ」
蒼は、話題を変えて少し笑って言った。
「ありがとう!」
誠は笑みを、蒼に返した。
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