めぐみの恵み

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 いつか憧れたお姉さんみたいにセーラー服を身に纏って、あの頃より近くなったような気がする空を見上げます。何故ならもう、わたしは立派な高校生なのです。  大人になりきれていない年齢ですが、良くも悪くもあの頃の宮本さんに近づきました。彼がかつて語った言葉の本当の意味を、もう何となく理解できてしまいます。思えば、名前よりも名字を名乗ることの方が増えてきました。透き通るほどに青い空が、時に少し苦しく思えてしまうことがあるのだということも、ちょっぴり分かってしまいます。大人になるとは、やっぱりそういうこと(・・・・・・)でもありました。  だけれどわたし、ちっとも絶望なんてしていません。悲しくもないし、苦しくもないし、やっぱり未来は明るくて夢はキラキラと輝いているものなのです。  スクールバッグから覗く、先程購入したばかりの本の表紙に口元を緩めました。そこに描かれた、ランドセルを背負う女の子はパフスリーブのワンピースを着ています。作者名が平仮名なのは、まだ小さかったわたしに対する気遣いなのかもしれません。やっぱり、どこまでいっても彼から見たわたしは子供のままみたいです。今のわたしはもう、常用漢字なら難なく読み書きできてしまうというのに。  わたしの一番はやはり両親ですが、宮本さんは特別な位置に立つ大人です。彼の言葉には全幅の信頼を寄せています。だってその身を持って、幼いわたしに夢を教えてくれたのですから。  つまるところ、彼は見事に首輪と、なんならリードまで噛みちぎってやったわけです。飼い犬脱却の為踏み出した一歩は、鮮やかにゴールテープを切ることが出来たということです。自らの努力と、情熱と、希望を持って。
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