第6話

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第6話

 帰宅すると、相変わらず柴犬は俺のベッドの上で寝ていた。  ってかコイツ、くつろぎすぎだろ。  動物としての警戒心はないのか。  まあいいや、と割り切り、皿の上に買ってきたエサを盛り付けると、柴犬はノソリと起き、ゆっくりとベッドから降りて、ボリボリとエサをかじり出した。  ――そんな姿に、やたら愛くるしさを感じてしまったが、「これはあくまで慈善活動だ」と自分に言い聞かせた。 ***** あれから三日が過ぎた。  相も変わらず、例の柴犬は我が家に居付いている。  何度か家から無理やり追いだそうかと試みたけれど、そのたびに無垢な瞳で見つめられ、なかなか実行できないでいた。我ながら甘い。  そしてなぜか、妙に俺になついている。  ベッドに入ると、寄り添うようにペタリとくっついてくるし、風呂やトイレに入っている間は、俺が出てくるまで常におすわりしながらドアの前で待っている。  ……むぅ、日に日に可愛さが募ってくる。なんて健気なヤツだ。  あの時の彼女にも、こんな健気さがあれば……。 ******  柴犬が住みつきだしてから一週間が経った。  本当に不思議なのだが、いまだにこの犬はニンニクくさい。  普通の犬用フードをあげているのに、口を開けて「ハッハッ」とやるたびに、ぷーんとニンニク臭が漂ってくる。  この柴犬は確かに可愛い。顔も整っているし、行動も愛くるしい。  でも、ニンニクにトラウマがある俺としては、ニオイがするたびに嫌気が差してしまう。  ごめん、お前に罪はないんだけど、このニオイだけは無理なんだ……。
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