後神

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「なんで絵だけなの?」  煌介がたずねる。 「……そう言うものなんじゃない?」  百子が言うと「書くことなかったんだよ」翔もうなずきながら言った。  颯太はそんなはずはないと思った。  このページに描かれている妖怪の名前は『(うしろ)(がみ)』  颯太は他の本で解説しているのを見たことがあったし、妖怪アニメでも一度見た記憶があった。  それこそ父親からもらった本にだって書いてあった。だから書く事が無いハズが無い。  颯太は目をこらしてみる。  おせじにもキレイとは言えない紙だけど、それでも真っ白。  文字のかけらも、書いてあった跡も見当たらない。 「ねぇ、次のページめくってよ」  煌介がつまんなそうに颯太をせかす。 「次、次!」  百子は手を伸ばし、ページをめくろうとする。 「ちょっと待って! まだ見てんの!」  颯太はその手を払った。  翔がページのはしをめくって、のぞき込もうとする。 「めくらないでよ!」  颯太がページを押さえる。 「良いじゃん。絵だけなんだから。もう見たでしょ?」  煌介が非難じみた声で言った。 「ちょっとやめなよ! 颯くんの本だよ!」  凛斗が携帯ゲーム機を置いて、煌介に言う。  周りの騒ぎが大きくなっていく中、颯太もさすがに次のページに進もうと思った。  その時、妖怪の絵が揺れた気がした。  颯太はめくろうとした手を止めて、目をしばたく。  颯太が見つめると、また一瞬、絵が揺れた。  颯太は驚きのあまり、言葉を失う。  そんな颯太には気づかず、まだ4人は騒いでる。颯太は今起こったことを整理出来なかった。 「ちょっと、みんな! 静かにして!」  颯太が言うが、めくろうとする手とそれを止めようとする手が次々と本に降りてくる。  その手のすき間で絵はさらに揺れる。いや、もう絵は動き出していた。 「みんなやめて! お願いっ!」  颯太は少し泣きそうになりながら言ってもみんな聞いていなかった。  そして颯太の目の前は真っ暗になった。
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