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みんな息をのんで翔を見ている。
「翔。そういう冗談はやめてよ」
凜斗が消え入りそうな声で言った。
「冗談じゃないよ……冷たい手が僕の背中に……それに息が首の後ろに……息はすっごい熱いよ」
煌介はゆっくりと回りこんで翔の後ろを見る。
「何にも居ないよ?」
「居るんだ! 助けて煌介……みんな……助けて」
でもみんな動けなかった。どうして良いか分からないからだ。
「と……とりあえずここから出よう!」
凜斗は翔の手を恐る恐る引く。
それを見て百子は部屋の出口から外の様子を見る。
薄暗い通路が真っ直ぐ続いている。
その時、百子の背中に冷たいものが触れたように感じた。
「お姉! 早く行ってよ!」
颯太が百々の背中を押す。
「押さないで!」
百子は颯太に怒鳴る。そして自分の背中から冷たいものが去っている事に気が付いた。
二人の間に煌介が割って入る。
「僕が先に行くよ」
煌介が部屋を出ると、それに百子と颯太が続く。
最後に凜斗に連れられて翔が部屋を出た。
通路を進む中、みんな押しだまったまま。
通路の先に明るい光が見えると、みんなホッとした。
みんなは走るように通路を進む。
煌介が通路から出ると急に立ち止った。
百子と颯太が煌介の背中にぶつかり、三人もつれるように光の中へと転がり出た。
三人に遅れて、翔が凜斗に手を引かれてやってくる。
5人は目の前に広がる光景に言葉を失った。
頼りない光で照らされたその場所は、まさに舞台。その前に広がるのは暗い観客席。
ここは古びた劇場だった。
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