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「まぁた、相手のいる人にちょっかい出してるの? アナタって本当に物好き」
つんと鼻を上げて露骨に見下すような視線を寄こすリリィに、ユキの腸はぐつぐつと煮えたぎっていた。
微力ではあるものの、唯一救いの手を差し伸べてくれる相手だからやり返すことができない。惨めな自分にますます嫌気がさして、ユキは乱暴に食器を引き寄せた。
「好きに言いなさいよ。良いご主人がいるあなたにはわからないわ。捨てられた私の気持ちなんて」
世の中も、あの男も、リリィも自分自身もみんなみんな大嫌い。ぐっと歯を食いしばり、眉間にしわを寄せる。
「そんなブサイクな表情しないの。せっかくかわいい顔してるのにもったいないよ」
「あなたにかわいいと思われたって何の得もない。私はただ愛されたいのよ。あの人に愛されればそれでいい。それだけで生きていけるわ」
「……まあね。かわいければそれだけでなんとかなる。世の中そんなもんよ」
同調して見せたものの、リリィはユキの余裕のなさにため息をついた。
自分たちの一番の武器はかわいさだが、それには容姿だけではなく愛嬌も含まれる。一生懸命なのはいいことだが、必死さが前面に出てしまうと相手に逃げられやしないだろうか。
「他の人じゃダメなの?」
「だめよ。愛し方を知らない人間は良くない」
「そりゃあ、愛し方を知ってる人間を見分ける一番の方法は相手がいることだけど、もう少しタイミングを見計らうとか……」
「私にはもう時間がないの。たとえどんな障害が立ちはだかろうとも、あの人を手に入れるわ。そのためなら、私は悪にだってなる。邪魔者はみんな排除してやる」
皿まで食べる勢いで昼食をがっつくユキに、明日の暮らしを心配する必要のないリリィはもう何も言えなかった。
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