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「ミャーミャー!」
「きゅうんきゅうん」
「ええ……、どうしたらいいんだろう。この状況」
三者三様の声が交錯する生活道路は賑やかだった。本人たちは必死にもかかわらず、傍から見れば楽しそうにしか思えない。そんな様相を横目に、配達の自転車が通り過ぎていく。
(私を連れて帰ればいいのよ!)
(そうだよ、大地くん。みんなで一緒に帰ろうよ! どうして伝わらないの? いつもだったらご飯もお散歩も抱っこしてもわかってくれるのに)
「豆丸、落ち着いて」
(ボクは落ち着いてるよ!)
もどかしさから、豆丸は大地の横をすり抜け走り出した。
こうなったら大地くんと猫を引っ張っていくしかない。豆丸の頭の中は、使命感でいっぱいになっていた。
「豆丸、待て! 待てって!」
制止の声など届きもしない。
後ろに引っ張られる形になった大地は、右手に抱えた猫を放り投げることもできずにバランスを崩した。たたらを踏んだ足がもつれる。ピンク色の夕焼け空がひっくり返る。
衝撃に備えて体を強張らせた大地の目に映ったのは、猫を咥えて心配そうに自分の様子を窺う豆丸の姿だった。
「あ……!」
二匹とも無事でよかった。安堵の笑みをこぼした瞬間、豆丸は大地に背を向けた。
リードを引き摺りながら、家の方へと駆けていく。
「豆―――!!!!」
(助けて―――!!!!)
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