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「大地! 一体何があったの」
「お兄ちゃんぼろぼろー」
痛むお尻をさすりながら家に帰りつくと、大地を迎えたのは目をまん丸にした母と妹だった。豆丸は中庭から自宅に入ったらしく、縁側からリビングへと足跡が残されている。
(いやー! はなしてバカ犬――!!)
豆丸は、普段自分の居場所としているリビングの端っこで、猫を守るように丸まっていた。
「この猫捨て猫みたいで、母さんに相談しようか悩んでたら豆丸が急に走り出して……」
「捨て猫? こんなにかわいいのに!」
「ああ、言われてみれば首輪してるのに痩せてるわ」
ぷりぷりと怒る小学生の愛海を宥めながら、母は冷静に猫の様子を観察している。
「首輪したまま捨てるなんてひどい飼い主ね」
母親の言葉に、大地は力強く頷いた。
「そうだよ。俺、首輪してるから捨て猫だってすぐ気付けなかったんだ。そうじゃなかったら、もっと早く気付いてやれたのに」
「それもあるけど、それだけじゃないでしょ。猫も犬も自分で首輪を外せないんだよ。そのまま大きくなったらどうなると思う? 想像力が足りてないよ」
「あっ……」
「それにしても、豆丸は飼い主にそっくりねぇ」
「え?」
「しらばっくれるんじゃない!」
母親は力の籠っていないげんこつを大地の頭に落とすと、床をきれいにするように命じた。
「それでさ、母さん」
念入りに床を拭いた大地は、この家の決定権をほぼほぼ掌握している母にそっと近づいた。
その眼前にぴらりと紙幣が突き付けられる。
「大地、これでキャットフード買って来なさい。ふつうのやつとおいしいやつ」
「いいの⁉」
「お腹を空かした猫を元の場所に戻してくるわけにはいかないでしょ。でも、今日のところはまだ様子見だからね」
「うん!」
大地は貰ったお金でなるべくたくさんエサが買えるよう、コンビニではなく量販店に急いだ。
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