飼い主によく似たわんこ、大福餅を拾う

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「え? 美玖(みく)さん、あの猫どうしたの? 飼うの?」  夕食の焼き鯖を摘まむ手を止め、男は向かいに座る妻・美玖に問いかけた。 時刻は午後九時半。妻と子供たちはすでに食事を済ませ、ペットの豆丸はリビングで微睡(まどろ)んでいる。いつも通りの光景にほっと息をついた彼の目に入ったのが見知らぬ猫の姿だった。 「ううん。一応今のところは未定」  美玖はお気に入りの醤油せんべいを手に取り、豪快に噛り付いた。ぼりぼりと小気味いい音が男の耳に届く。  猫が一匹増えていたって別になんともないでしょ? と言わんばかりの調子に、男は自分が細かすぎるのかと首を傾げた。 「なに? 孝之(たかゆき)さん、猫嫌いだったっけ?」 「そんなことないよ。俺は犬も猫も好き。でも、美玖さんは元々動物好きじゃないでしょう? 豆丸の時は慣れるまでしばらくストレスで寝不足になってたじゃないか」 「そんなの昔の話じゃない」  美玖はまるで子供の頃の恥ずかしい話を暴露されたかのように視線を逸らした。 「俺は美玖さんに自分を大事にしてほしいだけなんだけど」 「私は子供たちの気持ちを大事にしたいの。大地も愛海も飼いたいって言ってる。ま、今回の場合は子供たちよりも豆丸の気持ちって感じだけど」 「豆丸の?」 「そ、あの猫を連れてきたのは豆丸なの。しかも、全然離れようとしないんだから。もしかしたら、恋しちゃったのかも」 「犬が猫に?」 「犬が猫に」 「猫は犬を?」 「そんなに好きじゃないかもしれない」 「ぶはっ、片想いか!」  米つぶを噴き出した孝之に美玖はティッシュを一枚差し出した。 「とりあえず様子見って言ったけど、情ってすぐ移っちゃうんだよね」 「俺たちが? 猫が?」 「どっちも」 「脈はありそうなんだ?」 「わかんない。無理はできないしね。三日たっても猫ちゃんが豆丸に慣れなかったら、他の飼い主を探すしかないかな」 「そっか。仕方ないけど、それはしょうがないね」  二人の会話に、猫はそっと聞き耳を立てていた。
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