27人が本棚に入れています
本棚に追加
再び
二日前と似たような時間帯に、私は再び空港に向かっている。後ろには自分たちの荷物、隣には弟がいる。
ああだこうだと、母のことを話すうちに彼は
「俺、姉ちゃんに謝らなきゃ」と言い出した。
「なに、『近くに居られなくてごめん』は聞き飽きたよ」
「そうじゃなくてさ、着いた日のこと。俺気が動転しててさ、馬鹿みたいに野球ではしゃいだりして。
こんな時に、って思ったかもしれないけど、いつものように過ごしてれば、いつものようにお母さんが帰ってくるような気がしてたんだ」
「ああ……」
「ビールも、起きてると病気や手術のことが気になって寝られそうになかったから飲んだ。考え続けるのが怖くて、早く寝たくて」
「そうだったの」
私達はお互いに、遠慮していたのかもしれない。
しっかりしなきゃ、心配をかけたらいけないと。
あの面会で、弟が肩に手を置かなければ、すれ違ったまま別れていたかもしれなかった。
「私、弟がいてよかった。
あんたが弟でよかった」
「どうしたの急に」
「たぶん私、キャパオーバーだったと思うのよ。でも直樹がいたから、ここ数日を乗り越えられたと思う。
お互い大人になったけど、面会の時に小さい頃と変わらない魂、みたいなものが感じられた。
今は本当にとても心強い。直樹がいてよかった。ありがとう」
私は前を向いたまま言い放った。顔を見ると言葉が出てこなかったと思う。車を運転してる時でよかった。
「姉ちゃん、俺、遠くても支えになるよ。
なんでも言って。姉ちゃんが一人で抱え込みすぎないように、不安でも愚痴でも、相談でも、ホントになんでも……またラインして。いつでもいいから」
力強い弟の言葉。「うん」とうなずく。
気づいたら送迎エリアに車を停めていた。
弟が助手席のドアを開ける。外の冷たい空気が入ってきた。弟を迎えに来た日より冷たかった。
「送ってくれてありがとう。じゃあ、また」
「じゃあね。体に気をつけて」
「姉ちゃんも」
弟の背中が遠ざかっていく。
最初のコメントを投稿しよう!