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それぞれ食料品を買った。私は割引シールが貼られた弁当を選んだ。レジに向かう時、弟のカゴの中に缶ビールが入っているのが見えた。「こんな時に酒かぁ」という思いと、「弟もお酒を飲むようになったんだな」という思いが同時に浮かんだ。
店を出たところでスマホが振動した。
「ごめん病院から電話だ。車戻ってて」
「うん」
彼は私のエコバッグも持って行ってくれた。
車のドアを開けるないなや、「電話どうだった」と聞かれた。
「お母さん、意識戻ったって」
「えっ、じゃあ病院に」
「まだ話せる状態じゃないって。喉にも管通してるって言ってた」
「そうか……でも、よかったね」
「そうね」
安堵する弟の声音があたたかい。
けれど、彼が遠く感じられた。
私は病院から連絡が来るとひやりとする。手術前に見た、母の生気のない顔がよぎる。
手術して、成功して、だから安心だなんて、思ってはいられない。
だって母は元気だったのだ。少し血圧が高いくらいで、先週帰省した時も「畑でとれたの」と人参を持たせてくれた。
前兆もなく、今日だけでこんなになにもかも変わると思っていなかった。
変わり過ぎて現実味がなく、でも確かに車内には弟がいるのだった。
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