実家

3/4
前へ
/11ページ
次へ
――香織は頭がよくてしっかりしているけど、直樹の方がかわいげがある。  昔、親戚に言われたことがあった。暗に「お前は子供らしくない、かわいくない」と言われたとわかるくらいには(さと)い私だった。  明るく人当たりがよい弟は、学校の成績はあまりよくなかったが、いつも周りに人がいた。 「姉ちゃんは強いね」と言われた時、「ううん、今すっごく不安」と答えた方がよかったんだろうか。  だけど思考は実際、先のこと、先のことを考えてしまう。同情より次に何をするべきか、現実を優先してしまう。結果、冷たいと言われる。わかっていても、持って生まれた気質は変えようがない。  過去には、結婚を考えた人もいた。けれど「好きな人ができた」と別れを切り出された。  最後に彼は、「香織は強いから、一人でも生きていけると思う」と言った。  「姉ちゃんは強いね」と言った弟は、そんな私の過去を知らない。言ったところでどうしようもないし、今は母のことが最優先だ。  この家で一緒に過ごした頃はなんでも言えたのに。言えないことが増えていく。  スマホをたぐり寄せる。ネットを開くと、母の手術の間、検索していたページが残っていた。病気、入院といったワードを調べているうちに目についたもの。ネット上での介護の相談。 「同居している高齢の母をグループホームに入れようとしていますが、『施設なんてかわいそうだ』と妹が言います。そのくせ自分は遠方に住んでいて、めったに実家に帰ってきません。  私達家族も介護の限界です。お金も出さず、口だけ出す妹に嫌気がさしています。どう言ったらグループホーム入居を納得してもらえますか」  ああしたらいい、こうしたらいいと答えが続いていくが、ろくに頭に入ってこなかった。  私と弟も、そんなふうになるんだろうか。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加