27人が本棚に入れています
本棚に追加
面会
夜が明け、あっという間に面会の時間になった。
「あ、つながった。おーい」
弟がスマホに手をふる。画面の向こうに、薄いグリーンの入院着を着た母がいた。
「お母さん、大丈夫!?」
自分でもびっくりするくらい、大きな声が出た。
「ごめんねぇ、心配かけて。二人とも仕事あるのに……」
のどが痛そうな母の声。まぶしそうにこちらを見る眼差し。
「いいって、お母さんのためなんだから」
弟の声が耳を通り抜けていく。
私は、言葉が出てこなかった。胸からのどをふさぐ塊のようなものがあって、話せない。
画面の中の母から目が離せなかった。
いつの間にこんなに小さくなっていたんだろう。痩せて、真っ白な顔をして、死んだおばあちゃんみたいになっている、母。
いけない、泣くな。
なんだってこんな時に、母の前で。
弟だって、心配するだろう。私は強い姉だとふるまってきたのに。
「俺もだけど、うちの奥さんも心配してたよ。手術うまくいって、こうやって話せるくらいになってよかったね」
「そうね。先生たちのおかげだわ」
母はまばたきして、私の方に焦点を合わせた。
「あら、香織、やせたんじゃない?
だいじょう」
「ぶ」を言い切らないうちに――母は咳き込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!