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初めて妊娠検査薬を使ったのは十七歳のときだった。当時付き合っていた彼氏の両親が共働きで、誰もいない彼の家で、当たり前のように二人きりで過ごしていた。
彼氏がいる子はみんなしていたし、彼もコンドームは付けていたから、たった一度きりの失敗でまさか妊娠するなんてつゆほども思っていなくて――私は無知で、子どもだった。
厳格な父には生まれて初めて平手打ちされ、世間体を気にする母には涙された。彼の両親は堕胎の費用を全額支払い、彼とともにうちに来て頭を下げた。
私は、処置の痛みと小さな命への罪悪感で心がちぎれた。
「もう二度と、こんなことしないで」
母の言葉は、妊娠発覚から彼との別れまでを終えて弱くなっていた私の胸にグサリと突き刺さった。
産む覚悟ができるまでは、絶対に妊娠はしない。してはいけない。そう胸に刻み込んだ。
大学進学とともに実家を出てからは、交友関係が広がり、出会いも増えた。大人になると恋愛とセックスは同じ鍋にぶち込んで味わうのが当然だったし、妊娠さえしなければ恋人の肌の温もりは心を満たすものだとは知っていた。
だけど私は恋をするたびに恐れた。
無頓着に関係を進めようとする相手に、避妊を懇願したこともある。コンドームのみに頼っていたころは、生理が数日遅れただけで怯えていた。妊娠検査薬を買っては、陰性であることを連日のように確かめた。自衛のためにピルを飲んでいたころの恋人の、「じゃあゴム付けなくていいよな」という言葉で一気に幻滅したこともある。
「妊娠しない」を遵守することに、私は疲弊していた。男と女の、避妊に対する切迫感の差にも。
理解されないことにどうしようもなく苛立った。おなかに子を宿す可能性が、こんなにも恐怖でしかたないのに。
恋をするごとに、気持ちは恋愛から遠ざかっていった。それと反比例するように、私は仕事にやりがいを感じ始めた。
周囲の結婚ラッシュ、出産ラッシュの時期は、仕事のほうが楽しいと開き直ったものだ。
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