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ゆいさんの会社がさらに大きくなって、社員が二百人に迫るころのこと。
「俺、会社辞めるわ」
「え、何やらかしたんですか。横領ですか、脱税ですか、ハゲですか」
「やらかし前提かよ。ちなみに前髪は深刻にヤバイ」
「会社辞めてどうすんの?」
「地元帰って土いじりでもするかなぁ」
「やめてッ、地元を不毛の地にする気か!」
聞けば、会社がある程度の規模になり、つまり一定の成功を収めたところで熱が冷めてしまったらしい。
「要するに、飽きたんですね」
「続いた方だ。我ながらよくやったわ」
と、ゆいさんはふんぞり返った。
「やまちゃんも微力ながらよくやってくれた」
「喧嘩売ってんすか」
「山田って、喧嘩は絶対買いませんよーって顔して後ろから鉄パイプで殴るタイプだよね」
分かってんならその減らず口をつぐめ。
「後進も決めてある。俺がいなくても会社は大丈夫だろ」
特定の誰かがいないと崩れてしまう組織は組織とは言えない。代わりを埋めながら正常に運転し続けられるからこそ組織なのだ。三人から始まったゆいさんの会社は、今や立派な組織になっている。
「だから心配すんな。ここで働いてれば食うには困らんはずだ」
誘った身として一応私のことを気にしているらしい。
「お前はこのままここで頑張るといい」
余計なお世話だ。
仕事行きたくないよぉ、と毎朝布団で手足をジタバタさせながらも、いざ働くとなるとそれなりに頑張ってきた。ヒラが気楽で良かったのに役職までついてしまったのは不本意だったが、給料も上がって一層陽くんにお金を落とせるようになった。
きっかけはゆいさんの誘いだったが、そこから先は私が自分で選んできた道だ。きっかけに過ぎないあんたが余計な口出しをするんじゃない。
「嫌です。ゆいさん辞めるなら私も辞めます」
安定を求めるなら前職でも十分だった。
この会社に飛び込んだのは、ゆいさんがいたからだ。ゆいさんがいたから、私は自分でこの会社を選んだ。だって――。
「ゆいさん、『一生食うには困らんことを保証してやる』んでしょ?」
こんなおいしい話、離してなるものか。
「ゆいさんはもう私の人生の一部なの。腹を決めてください」
ゆいさんは困ったように頭を掻いた。
「プロポーズみたいだな、そのセリフ」
かぁっと頭が沸騰した。
「んなわけあるかーー!!」
怒号は下のフロアまで響いていたらしい。
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