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一四九九年、ルイ十二世の命を受けたフランス軍が、イタリア半島のミラノ公国を占領した。そのとき、レオナルド・ダ・ヴィンチは、ミラノ公国の支配者スフォルツァ家に呼ばれて、フィレンツェ共和国からミラノ公国に移住し、王宮の謁見の間に飾る四枚の風景画を描いていた。
その忌まわしい知らせが届くと、ダ・ヴィンチの一番弟子ルキノ・カンパネッラは、フィレンツェ共和国への帰還を主張したが、ダ・ヴィンチは作品が完成するまでは帰らぬとそれを退けた。
ある日、ダ・ヴィンチの工房に、ルイ十二世の使いの者が来た。
「王は、そなたにサン・ロレンツォ大聖堂の大広間の壁画を描いてほしいとお望みだ。『ミラノ占領』という題以外はすべて、そなたに任せるそうだ。金はいくらかかっても構わぬ。そなたの言い値通り支払うとのお言葉だ」
ダ・ヴィンチは一瞬顔を曇らせたが、「お引き受けいたします」と頭を下げた。
「して、期限は?」
「十二か月後とのこと」
「それならば十分です」
使者は満足して帰って行った。
一番弟子のルキノが口を開いた。
「先生、フランスは我が国の敵国。何もそんな奴らの仕事を引き受けることはありません。この仕事は断りましょう」
二番弟子のウンベルト・ガリバルディも言った。
「先生、フランス軍がスフォルツァ城のコルテ・ヴェッキアにした仕打ちを忘れてはなりませぬ。あの中庭にあった先生の『フランチェスコ記念騎馬像』を、こともあろうに、射手の標的にしたのですぞ。あの振る舞いは、断じて許すわけにはまいりません」
弟子たちは口々にダ・ヴィンチに訴えた。ダ・ヴィンチは口元に微笑みを浮かべた。
「悔しい気持ちは私とて同じこと。ただ、今回の話を受けたのは、私に考えがあってのこと。出来上がりをお前たちに見てほしいのだ。この件はこれ以上は無用だ」
納得が行かない様子の弟子たちを置き去りにして、ダ・ヴィンチは仕事に戻った。
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