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『破壊せよ、さすれば生まれる』の文言の意味と師の遺言との関係をひたすら考えていた。
師匠は自分が描いた『ミラノ占領』を恥じていたのか? そんなはずはない。師匠は「いつの日か、私がしたことの意味がわかる日が来る」とおっしゃっていたのは、自分がしたことが正しいとお考えであった証だ。
ひょっとすると、『破壊せよ』とは『ミラノ占領』を破壊せよ、ということではないのか? 破壊したらどうなるのか? まったくわからぬ。でも、フランス軍の重警備がなくなった今こそ、あの壁画に近づく絶好の機会だ。
マルコは大聖堂を管轄する司祭に面会し、師ルキノの『ミラノ占領』の壁画が完成後二十年経ち、劣化し始めているので修復をしたいと申し出て、許可を得た。
翌日、マルコは、フィレンツェ共和国のウンベルトの工房へ向かった。けれども、工房の中に入れず、散々な扱いを受けた。
「王のイヌのところに行った恩知らずめ」
「今更戻りたいと言っても遅いぞ」
罵声を浴びながらも、マルコは頼んだ。
「ウンベルト先生に大事な話があります。」
「先生は忙しいんだ。お前なんかに会う暇はない」
「とっとと帰れ」
押し問答をしていると、騒ぎを聞きつけて、ウンベルトがやってきた。
マルコは必死になって、師のルキノが描いた壁画の秘密を探り出したので、その証人になってほしいと言い張った。マルコの真剣な口振りにふと心が動いたウンベルトは、一緒にサン・ロレンツォ大聖堂に行くことを承諾した。
大聖堂に着いたマルコとウンベルトは、壁画の修復の名目で、大広間に入ることが許された。修復作業をするので人を入れないでほしいと、マルコは司祭たちに伝えた。
マルコは、大広間に入るとすぐに、取り出した鑿で、師匠の『ミラノ占領』の左下の部分を壊し始めた。
「何をするんだ?」
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