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よく見るとその骨はペットショップでよく見かけるものより、だいぶん長かった。背筋がゾクッとして、骨からおばあさんに視線を移す。
「事故で折れて取れてしまった右足を、火葬する間際にこっそり取り返してきたんです。何か一つでも主人の存在を残しておきたくて」
誰かにしゃべりたかった欲求が満たされたかのように、おばあさんはフウと息を吐いた。
私の顔や手を舐めた犬の舌は、人の骨を舐めていた。恐怖に顔がいがむのが自分でもわかった。
「しばらくは、三人で暮らしていけます」
出された紅茶も喉を通らず、犬の骨を見つめるしかなかった。
突然、玄関の扉が開いた。
「ただいまー、遅くなってすまん」
犬は骨を置いて、尻尾を振りながらおじいさんに飛びついた。
「おもしろい話だったでしょ? ここはいいところだけど、刺激が足りないから。東京に帰ってもお元気で。私も楽しかったわ」
おばあさんは満足気に笑った。一方、私は虚ろな気分で家を出て、バス停に向かった。
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