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ワンワンワンワン。
小鉄が吠えまくっている。
「何か見つけた?」
私はおそるおそる中をのぞきこんだ。
男が横向きに寝転んでいる。その顔を小鉄は舐めた。
ホームレス? 若そうだけど、まさか、容疑者? 何をしたのかは聞かなかったけど、逃げなきゃ。誰か、呼んで……。
そう、思った時にその男は咳き込んだ。苦しそうに体を折り曲げている。こんなところに寝泊まりしていたら、風邪も引くだろう。
「大丈夫ですか?」
近づくと、男は少し顔を上げた。
その顔に見覚えがあった。小鉄が出会った時に大事そうに咥えていた写真。あの笑顔はないけれど、忘れることはなかった。
「この子を捨てたことを覚えていますか?」
そう尋ねると、男は不思議そうに小鉄を見た。
「……大和? 大和なのか」
ワンッ。
答えて男を舐めようとする小鉄のリードを縮めた。それでも、近づこうとする小鉄の前足が浮いた。
「今は小鉄と言う名前です。嘱託警察犬をしています」
そう言うと、男はビクリと肩を震わせた。
「恨んでるのか、お前。だから、俺を警察に」
「恨んでなんかいません! 恨んでいるのは保護した時の姿を覚えている私だけ。小鉄はただ、あなたに会って嬉しいだけなんです」
小鉄は訓練を忘れたようにはしゃぎ、尻尾を振っている。
「あなたと違って、弱っているあなたを置き去りにするようなことを小鉄はしません」
男は小鉄に手を伸ばしかけて、止めた。それから、ぽろりと涙を落とした。
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