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「食え」
一口にちぎったパンを、男の目の前に差し出した。
そろそろ齧り付いてくる頃だろうと期待したが、男は静かにこちらを睨むだけだった。
どうしたものかと、璃舜は頭を悩ませた。
「腹減ってんだろ?」
もう3日は何も食べさせていない。
いや、食べさせようとはしているのだが、食べないのだ。空腹はそろそろ限界のはずだった。近くに置かれた皿を見るに、水もあまり減っていない。
璃舜はその場にしゃがみ、男の首に繋がる鎖を引き寄せ、両頬を掴み上げて口をこじ開けた。その隙に無理矢理パンを押し込む。今度は吐き出されないように顎をグッと持ち上げ、飲み込むのを待つ。
ほぼ一瞬の出来事だった。
男は咀嚼もろくにできないせいか、なかなか喉を通さない。
「うっ、はな……せ」
男は苦痛に顔を歪ませながらも首を左右に振り必死に抵抗する。
璃舜は淡々と押さえ付けるその手つきとは裏腹に、内心では少しの焦りを感じていた。
普通なら、犬は餌を与えてくれる主人に媚びを売る。そうすれば十分な量を与えられると本能でわかっているからだ。食欲という強い欲求の前では、どんな人間であれ目を潤ませ、主人の一挙手一投足に過敏に反応する犬に成り下がる。「あなたの下僕です」と、その魂でもって平伏する。
しかし、この男は屈辱をあらわにする。むせながらパンをようやく飲み込んだ後も、璃舜への態度は変わらない。
再びちぎったパンを差し出すが、食べようとするどころか後ろ手に縛られた枷を解こうと身じろぎ、できないとわかるとしばらく璃舜を睨みつける。
「……せめて、手を使わせろ」
「食え」
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