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「元な。今は奴隷だ。お前は祖国に売られたんだよ」
「敗北者だということは認める。私が至らなかったせいで、多くの仲間も失った。相応の罰は受ける。……だが、人権まで手放すつもりはない」
はっきりとした口調だった。
衰弱した身体から出てきたとは思えないくらい芯の強い言葉だ。
「残念ながら、この国に人権なんてものはない」
「そんなはずはない。人として生まれながらに持つ権利、っ!!――」
呻き声とともに男は黙る。
璃舜が鎖を強く引き寄せたためだ。首を無理矢理持ち上げられた状態では、喋るどころか呼吸もままならない。
気道が圧迫され、ゼーゼーと浅い呼吸を繰り返しながらも、男は璃舜を睨みつけた。
なぜここまで理性を保てるのか、不思議で仕方なかった。
これまで璃舜の前ではどんな屈強な兵士も狡猾な女狐も、あっさりと堕ちていった。
飴と鞭の使い分けにコツはいるが、それほど難しいことではなかった。そうやって食ってきたのだ。
「わた、しは、……うっ、……にんげんだ」
堕ちない犬に、ますますこの執着は渦を巻いて増大していく。
そして再び鋭い目に捉えられた瞬間、我慢の糸がプツリと切れ、璃舜は男の顔を思い切り蹴り上げた。
「口を慎め。犬の分際で……」
床に力なく転がり、鼻や口からポタポタと血を流す。それでも、男の目の中の火が燃え尽きることはなかった。
冷静さを欠くことは、璃舜の負けを意味する。
餌付けは失敗だ。璃舜は唯一の灯りであった蝋燭を吹き消し、何も言わずにその場を去った。
男が璃舜の元に来たのは3日前だった。
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