俺の犬

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「名をヨルダ、といったか」 璃舜は男の前に屈んだ。 蝋燭を床に置くと、ヨルダの目に炎が灯る。 「傷を見せろ」 頬の出血は止まっているが、赤く腫れ上がっていた。一週間で引くだろうかと懸念が残る。 璃舜は傷に消毒薬を塗った。その間、ヨルダは抵抗することなく、また薬剤の刺激にも反応することもなく静かに処置を受けていた。 「口を開けろ」 ヨルダは怪訝な顔で璃舜を見つめる。 「パンは突っ込まねぇよ。傷を見るだけだ」 するとヨルダは意外にも大人しく口を開けた。 犬に成り下がった様子はないし、かと言って何かを企んでいる訳でもない。 素直に従うヨルダに不気味さを感じながらも、璃舜は口の中の傷にも消毒薬を広げていった。 一通りの処置を終えると、ヨルダが口を開いた。 「礼を言う。ありがとう」 一瞬、何を言われたか理解できなかった。 「お前、俺に礼を言ったのか……?」 「そうだ。傷の手当てをしてくれたんだ。当然だろう」 この言葉に裏があるようには思えない。長年の経験から、璃舜は相手の嘘を見抜くのが得意なのだ。 「手当をしたのは、化膿したら俺が困るからだ。それに、この傷は俺が蹴り上げたことによるものだと忘れたのか?」 「お前が私を蹴り上げたことと、今私に手当てを施したことは別の問題だ」 なんて奴だ。 璃舜は面を食らったように、ヨルダから目を離せなかった。 「それに、私の名を呼んでくれたな」 「お前がそう呼べって言ったからな」 ヨルダのこれほどまでの器は、きっと今まで多くの民を救い導いてきた器なのだろう。 この状況でもなお、この男は自国の民の幸せを願っている。そう直感した。 「他に傷は?」 「大丈夫だ」
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