甘くて少し、痛かった

1/12
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 夕焼けがしっとりと降ちていく。  空はとちゅうから黄金色に変わって、真っ黒な街の向こうでは、輪郭のぼやけた太陽が神々しく光っている。  学校までの帰り道、わたしは歩きながら、ひたすら遠くを眺めていた。  隣には、同級生の貝塚(かいづか)(たから)が歩いている。  「色紙のシール、猫でよかったかな?今さらだけど、桜とかのほうが卒業らしかった気がする」  わたしの顔を覗きながら質問してくる貝塚くんに「可愛いのならなんでもいいと思うよ」と、振り向きもしないで適当な返事をした。  わたし、二年二組の学級代表、琴浦さりは、三年生の送別式に向けて色紙とコサージュ作りを任されている。  そして、彼、貝塚宝も五組の学級代表だ。  委員会が終わった後、買い出しを頼まれて荷物を纏めていたら、先生が来て、たまたま教室付近にいた貝塚くんを見つけ、わたしに同行するよう頼んだ。  最悪だ。と思った。  「いやいや。なんなの?」  「え?」  「さり。こういうシールとか選ぶの好きだったじゃん。なんでそんな興味なさげなの?」  「そんなことないよ?べつに」  「もう半年も経つんだからさ、普通にしようぜ。普通に」  そう言って、半ば呆れたようなため息をつく貝塚くんの目を、わたしは決して見ない。  彼のサラリとした黒髪が揺れても、見てしまわないように、綺麗な空に目を向ける。    だって、彼は、半年前に別れたわたしの元恋人だから。    
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!