OLたちの噂話

「ねえねえ、知ってる？」
「何？」
「営業部の渡部課長、離婚するんだって」
「え、そうなの？　あの人、去年結婚……ていうか再婚したばかりでしょ。
　それも、私達と同年代ぐらいの若い奥さん貰ってたよね？」
「そうそう。若いキャバ嬢にのめり込んじゃって
　20年連れ添った元奥さんを捨てたのよ。高校生の娘さんも居たのにねー」
「そこまでして結婚したのに、もう離婚かあ」
「馬鹿な人だとは思ってたけど、ここまでとはねー。
　因みに、離婚原因は今の奥さんの不倫らしいよ」
「ああ、そうなんだ」
「しかも、不倫相手は同じ営業部の上原さんなんだって」
「上原さんって、営業部のエースって言われてるあの人？」
「うん。入社3年目の若手ながら、売上トップのイケメン営業マンこと上原さん」
「へえ……あの人、上司の奥さんに手を出しちゃったんだ」
「上原さん、課長の犬って揶揄されるぐらいに媚びてたみたいだけど、
　よりにもよってその奥さんに手を出すなんて、馬鹿だよねー」
「これが飼い犬に手を噛まれるってやつか」
「あはは、その通りだわ」
「それにしても、やたら詳しいのね。営業部の人たちのこと」
「まあねー。私の彼氏、上原さんの同僚だから。色々聞かされるのよ」
「ああ、そうなんだ」
「聞くところによると、売上でトップを取ったお祝いにって
　課長が自宅に上原さんを招いたらしいのね。
　それがきっかけで、奥さんと上原さんは不倫に走るようになったんだとか」
「へえ。皮肉な話だね」
「まあ、奥さんからしてみれば上原さんの方が年も近いし、イケメンだし。
　この先老いる一方の課長なんか捨てて、
　若い男に乗り換えたくなったんじゃない？」
「でも、不倫はダメでしょ」
「そりゃそうよ。不倫なんて誰も幸せにならないに決まってるんだから」
「だよね。なのに何でやっちゃうかなあ」
「人のものを奪うことが大好きなんじゃないかなー、二人とも。
　だから、気が合ったんじゃない？」
「ああ、まあ……今の奥さんは前の奥さんから課長を奪って、
　上原さんは課長から奥さんを奪ったわけだから……確かにそうか」
「それだけじゃないよ」
「ん？」
「上原さん、営業成績がトップだとか嘯いてるけど本当は違うの」
「どういうこと？」
「他人の売上とか評価を掠め取って自分の成績にしてるのよ。
　私の彼も上原さんに売上を奪われたことがあるの。それでよく怒ってた」
「そうなんだ。課長に抗議とかしたの？」
「したけど、負け犬の遠吠え扱いされたんだって。酷い話よねー」
「そうだね」
「それにあの女も……」
「ん？」
「ううん、なんでも無い」
「？？」
「まあそういうわけで、あの渡部課長があんな目に遭って少しザマァな気分」
「あはは……」
「そんなわけで、今や課長と上原さんは犬猿の仲。
　お陰で営業部内の空気も最悪らしいよー」
「そりゃそうなるよね。
　……ん？　どうしたんだろう、表が騒がしいみたいだけど」
「あらー、課長の奥さんが会社に乗り込んできたみたいよ。
　課長が出てきて対応してるみたいだけど」
「うわあ……こんな所にまで二人の怒鳴り声が聞こえてくる」
「場所もわきまえず、お互いを罵りあってるねー」
「あ……今、ガラスの割れるような音がしたけど大丈夫かな」
「大丈夫大丈夫。放っておけば良いのよ。夫婦喧嘩は犬も食わないって言うしねー」

（終）